研究課題/領域番号 |
15K08207
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
渡邊 達生 鳥取大学, 医学部, 教授 (60182929)
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研究分担者 |
木場 智史 鳥取大学, 医学部, 准教授 (40565743)
三好 美智夫 鳥取大学, 医学部, 助教 (20093627)
久郷 裕之 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40225131)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 体温 / 胎生期 / 受精卵 / エピジェネティスク / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
恒温動物における体温の正常値決定の機序は不明であるが、発生時の環境温度と遺伝子が関与する可能性がある。平成27年度は、マウスの体外受精を行い、受精卵の培養温度を変化させて得た仔マウスの深部体温をテレメトリー法により測定した。その結果、受精卵を38℃で4日間培養して生まれた雄仔マウスの体温は、37℃で受精卵を培養して生まれたコントロール群と比較して有意に低かった。しかし、活動量に有意な差は認められなかった。また、体重に関しても2群間で差は無かった。次世代シークエンサーを用いて両群のマウスの脳の遺伝子発現を検討した。その結果、アラキドン酸のエポキシゲナーゼ系の酵素の発現が高温培養群で亢進した。エポキシゲナーゼ系は解熱に関与することが報告されている。高温培養群でのエポキシゲナーゼ系の活性化が、低い体温の原因である可能性が推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、発生時の環境温度の生後体温への影響を調べる為に、切断したプラナリアや鶏卵の培養温度を検討する予定であったが、その後のdiscussionで、ほ乳類の体温決定の機序を調べるのが最重要ということで、まず、マウスで検討を行った。その結果、受精卵の培養温度を高くすると生後体温の低い個体となることが立証できた。つまり、最重要の知見が早い段階で得られた。このことは、胎生期の環境温度が生後の体温に影響を与えることを意味している。発生初期に高い環境温度にさらされると体温を低下させる機序がより発達し、体温を上げる機序がより抑制されるとの解釈も可能である。これとよく似た現象として、低栄養の胎児は、生後低栄養状態でも生存できるように、酵素、生理活性物質の受容体、情報伝達系等の多様な代謝応答機構が変化してその結果、高栄養・成人病にかかりやすくなることが知られている。したがって、当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究で、受精卵高温培養によりマウスの体温が37℃培養のコントロール群より低くなることが分かった。また、次世代シークエンサーによりアラキドン酸のエポキシゲナーゼ系の酵素の発現が高温培養群で亢進した。今後は、この体温変動の機序を調べるために、1)エポキシゲナーゼ系の酵素の発現上昇にepigeneticな変化が関与するか否かを究明する。2)エポキシゲナーゼノックアウトマウスを作成して体温がワイルドタイプのマウスより高くなるか否かを検討する。これらの実験により、発生初期の環境温度が生後体温に及ぼす効果の機序に、エポキシゲナーゼ系のupregulationが関与するか否かが解明される。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要で記載したように、高温(38℃)での受精卵培養で生まれた仔マウスは常温(37℃)培養で生まれたコントロール群より低い体温を示した。また、この低い体温には、高温培養群でのエポキシゲナーゼ系の活性化が関与する可能性が推察された。そこで、低温(36℃と36.5℃)培養も試みた。しかし、ほとんどマウスは誕生せず、生まれてもすべて1~2週間の内に死亡した。そのために低温培養の結果を得ることができなかった。長い月日をその実験に使用してしまった。そのため、一部の研究しかできなかったとともに、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後は、次年度使用額と、平成28年度分を合わせて、高温培養で生まれたマウスのエポキシゲナーゼ系の酵素の発現上昇にepigeneticな変化が関与するか否かの究明や、組織のエポキシゲナーゼ系酵素タンパクとそのmRNAの発現上昇の確認のために各種キットを使用するとともに、ノックアウトマウスの作成などに経費を使用する予定である。
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