研究課題/領域番号 |
15K08208
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
紫藤 治 島根大学, 医学部, 教授 (40175386)
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研究分担者 |
片倉 賢紀 城西大学, 薬学部, 准教授 (40383179)
松崎 健太郎 島根大学, 医学部, 助教 (90457185)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 唾液腺幹細胞 / 暑熱馴化 / Salisphere / 暑熱暴露 / 口腔乾燥症 |
研究実績の概要 |
本年度は実験動物の唾液腺(個体レベル)および単離した唾液腺幹細胞において、温熱刺激が唾液腺幹細胞の増殖と分化に及ぼす影響を検討することを目的としたが、個体レベルでの繰り返し暑熱曝露の影響を主に検討した。 ウィスター系雄性ラット(10週齢)を用いた。ラットを環境温24℃、明暗周期 12:12時間、自由摂食・摂水下で飼育した。1週間後、暑熱馴化群(HE)は32℃の高温環境で5日間飼育し、対照群(CN)は24℃で飼育した。また、暑熱曝露の深部体温への影響を確認するため、テレメトリーシステムにより腹腔内温を測定した。ラットの腹腔内には暑熱曝露開始の日からブロモデオキシウリジン(BrdU)(細胞新生のマーカー)を5日連続で50mg腹腔内投与した。暑熱曝露開始から6日後にラットを麻酔し、経心的に4%パラホルムアルデヒドを灌流した後、顎下腺を摘出した。顎下腺の凍結切片を作成し、BrdUの染色を行った。染色した切片は共焦点レーザー顕微鏡で観察した。さらに、顎下腺からパラフィン切片を作成し、細胞増殖マーカーであるKi67で染色した。 暑熱暴露によりHEの腹腔内温はCNに比較して約0.4度上昇した。顎下腺において、HEのBrdU陽性細胞数はCNに比べて減少する傾向があった。また、Ki67陽性細胞数も減少する傾向にあった。これら結果は、暑熱暴露はラット顎下腺の細胞増殖を抑制する可能性を示唆する。一般的に幹細胞などの未分化な細胞では増殖シグナルの抑制により分化が促進することから、暑熱暴露によるラット顎下腺の幹細胞増殖抑制は唾液腺幹細胞の分化を意味する可能性がある。 加えて、培養したラット唾液腺幹細胞の増殖と分化に対する培養温度の影響の検討するため、唾液腺幹細胞塊(Salisphere)の形成を確認した。多くのSalisphere が幹細胞マーカーであるc-Kitに陽性でった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個体レベルでの暑熱曝露による唾液腺幹細胞の増殖と分化についての基本的検討はほぼ終了しており、得られた結果も十分に理解されるため、「進捗状況はおおむね順調に進展している」と判断される。 培養したラット唾液腺幹細胞の増殖と分化に対する培養温度の影響の検討においては、Salisphereの形成は期待通り確認できたものの、その数とサイズが安定せず、予想よりそれぞれ少なく小さかった。今後の培養温度に関する検討に向け、唾液腺からの幹細胞のサンプリングと培養によるSalisphere の形成方法の改善(習熟)が望まれるため、この部分の研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断される。しかしながら唾液腺幹細胞の細胞内増殖・分化シグナルに関する検討も進んでいるため、本年度の進捗状況は全体として「進捗状況はおおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
個体レベルでの暑熱曝露による唾液腺幹細胞の増殖と分化への影響について検討において、暑熱暴露は唾液腺幹細胞の分化を促進する可能性が示唆された。幹細胞の増殖・分化には、Hes1やHes5などのbHLH因子(basic region-helix-loop-helix構造を持つ転写制御因子)が密接に関与することが知られる。今後は、これら転写因子の顎下腺における発現解析を行い、暑熱暴露による細胞増殖・分化への影響について解析する予定である。しかし、個体レベルでの転写因子や増殖・分化シグナルなどの解析は困難であることが予想されるため、培養唾液腺幹細胞を用いてin vitroでの解析を並行して行う。 培養したラット唾液腺幹細胞の増殖と分化に対する培養温度の影響の検討において、ラットの顎下腺から採取した細胞から誘導したSalisphereの多くは幹細胞マーカーであるc-Kit陽性であったことから、Salisphereを形成する細胞は唾液腺由来の幹細胞である可能性が示唆された。しかし、唾液腺細胞の培養皿にはc-Kit陰性の細胞も多く、この培養条件で暑熱刺激による唾液腺幹細胞の増殖・分化や転写因子などの発現変化を解析するには不純物が多すぎると判断された。そこで、フローサイトメトリー法により幹細胞をソーティングし、回収した細胞を培養後に温度刺激による反応を解析することを予定している。なお、これまでの予備的な解析により唾液腺培養細胞にはCD24/CD29二重陽性細胞(高い増殖能を持ち幹細胞などの未分化細胞を含む)が15%程度含まれていることを確認した。今後、本学にあるセルソーティング機器を用いて CD24/CD29細胞を回収し、MSG培地で培養後に純度の高いSalisphereを形成し、温度刺激の影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
個体レベルでの暑熱曝露による唾液腺幹細胞の増殖と分化についての検討が順調に進行し、実験動物の購入・飼育費が当初予定より減額した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度以降は実験計画通りに費用が用いられるほか、繰り越し分は、唾液腺幹細胞の純化のために新たに行うフローサイトメトリーの消耗品費に充てられる。
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