様々な環境ストレスは臓器に遺伝子変異を誘発し、心筋症や癌など致死的な疾患に関与しているが、解析が困難であり、遺伝病以外ほとんど解明されていない。申請者は、組織特異的なストレス誘発変異を解明するため、疾患微量組織から高純度DNAを抽出し、次世代シーケンサーで点突然変異を正確に解析する手法を確立した。組織が微量であることから、2000箇所の既知の心筋症の報告がある変異領域をカスタムパネルで1本のチューブで増幅し、次世代シーケンス解析を行った。この技術を家族歴のない致死性拡張型心筋症の微量心筋に応用し、原因遺伝子を同定した。その結果、心筋のカルシウムを制御する遺伝子で1塩基の欠失した変異が見つかり、この変異は、タンパク質の欠損を誘発していた。この遺伝子の領域を含め全エクソン領域の次世代シーケンス解析を追加解析し、この変異を確認することができた。また、この変異箇所の1塩基手前の変異で家族性心筋症発症が報告されており、申請者が検出した変異が心筋症を誘発している可能性が高いことを示唆している。この変異遺伝子を細胞に導入した結果、細胞内での局在は変化しなかった。そこで、この変異遺伝子を発現するゲノム編集マウスの作製に取り組んだ。ゲノム編集マウスでは、卵管に直接ゲノム編集のためのガイドRNAなどを導入し電気穿孔法で卵管内の受精卵のゲノム編集を行った。その結果、10%前後の成功率で変異マウスの作出に成功したが、いずれも出生直後に死亡し解析まで進んでいない。さらに改良を重ね、疾患変異を再現する染色体相同組換えマウスを作製し拡張型心筋症治療の糸口を見いだす。
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