研究課題
本研究は、単独あるいは複合的な時計遺伝子変異細胞株の作出とその周期解析から、哺乳類概日リズムの温度補償性を規定する分子モジュールを明らかにすることを目的としている。これまでの研究から、時計遺伝子の発現リズムに温度補償性が備わっていることが分かっているが、その成立メカニズムの詳細は不明である。本研究ではまず、周期変化をもたらす遺伝子欠損をマウスES細胞に導入し、分化後に形成される概日リズムを測定した。概日リズムは時計遺伝子Cry2の欠損により長周期となり、カゼインキナーゼCKIdの欠損株も長周期を示した。また、CKIdとCKIeのホモ二重欠損株は得られなかったが、CKIdの欠損株にCKIeのヘテロ欠損を導入すると、CKId単独の欠損時よりもさらに長い周期長を示した。より長い周期を示す時計遺伝子欠損株を得るため、CKId:CKIe:Cry2の三重欠損株を作製したところ、30時間を超える周期長を示す株が得られた。これらの単独あるいは複合的な時計遺伝子欠損株を用いて異なる温度条件下で概日リズムを測定したところ、どの細胞株においても温度補償性が大きく損なわれることはなかったが、CKId/eの欠損株では温度補償性の若干の減弱が見られた。このことから、周期長の異常と温度補償性CKId/eによる概日リズム制御機構が温度補償性の成立に関与している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に従い、周期長の変化をもたらす複数の時計遺伝子欠損細胞株を作出し、それらの周期長を測定することに成功した。また、複合的な遺伝子欠損により、30時間を超える超長周期を示す細胞株を作出することができた。作出した細胞株を用いて概日リズムの温度補償性を解析した結果、周期長に依らず温度補償性が成立していることが明らかとなった。本研究は時計遺伝子欠損細胞の作出と概日周期の温度補償性を解析するための実験系を立ち上げることに成功しており、極めて順調に進捗していると言える。
周期長に影響を及ぼす時計遺伝子の欠損では温度補償性を大きく変化させることはなかったが、CKId/eの欠損により若干の温度補償性の減弱が見られた。CKId/e はPER1,PER2をリン酸化することでそれらの安定性を制御し、周期を調節していると考えられており、今後はPER1,PER2の欠損株や変異株を用いた解析を行う予定である。CKId/eのホモ二重欠損株は生育できないと考えられるため、そのリン酸化基質であるPER1,PER2をターゲットとした解析は有用であると思われる。
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Journal of Biological Rhythms
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