研究課題
身体疲労特異的なバイオマーカーを検索するために、マウスに疲労負荷を行った後、各種臓器での遺伝子発現変化を検討した。従来、マウスやラットを用いた疲労負荷実験では、数百から数千種類の遺伝子が変化することが報告されており、疲労負荷実験では疲労に特異的な遺伝子変化をとらえることは難しいとされていた。この欠点を克服するために、疲労現象を生じさせることのできる最小の疲労負荷条件を見いだした。この負荷条件は、4時間~8時間の不眠というもので、自発運動量の低下によって客観的に評価可能な疲労現象を観察できた。またこの条件は、従来の疲労負荷において用いられていた5日~1週間の不眠という条件に比して遥かに軽い負荷であった。この系を用いて疲労に関係する遺伝子発現変化をmRNAに対するReal-time PCR法を用いて検討した。検索の候補とする遺伝子は、疲労による再活性化が確認されているヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の再活性化に関係する遺伝子とした。遺伝子発現変化は主として肝臓で生じ、炎症性サイトカインの誘導に関係するシグナル伝達経路が活性化していることが判明した。同様の遺伝子変化は、運動負荷においても観察され、これらの遺伝子発現変化が、不眠負荷にも運動負荷にも共通する身体疲労特異的なバイオマーカーとなることが示唆された。ただ、今回見いだされた身体疲労特異的なバイオマーカーとなる因子は、シグナル伝達経路に関係するものであり、主として細胞核に存在するものであった。このため、血清中の抗体やタンパクの検査を用いてこられを測定することは難しいと考えざるを得なかった。しかしその一方で、今回、肝臓を中心に観察された遺伝子変化の一部は末梢血細胞においても観察され、ヒトにおいては血液中のmRNAを測定することで検査が可能であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
マウス実験において身体疲労に特異的なバイオマーカー候補を見いだし、これが末梢血中でも観察可能であることを示すことができた。平成27年度の研究実施計画では、身体疲労特異的なバイオマーカーを見いだすことを目的としており、血液中に存在するmRNAあるいはタンパクまたはタンパクに反応する抗体を候補としていた。今回の研究では、血液中で身体疲労のバイオマーカーとなるmRNAの測定が可能なことを示すことができた。これは、本研究の目的である精神疲労と身体疲労の鑑別が可能な疲労測定法の開発に向けて、重要な進展であると考えられる。また、同時に血液中のタンパクや抗体は身体疲労のバイオマーカーとなり難いことも示すことができた、これも今後の研究開発において重要な知見であると考えられる。
今回の研究によって、身体疲労に関係する遺伝子変化は血液中のmRNAを測定することで検査が可能であると考えられた。このため、身体疲労のバイオマーカーに関しては、mRNAを中心にバイオマーカーの確立を図る。精神疲労のバイオマーカーに関しては、当初の予定どおり、HHV-6の潜伏感染遺伝子タンパクであるSITH-1に対する免疫学的な検出系の感度の向上を図る予定である。方法としては、当初の予定どおり、感度の高いELISA法の開発を行う。また、これまでの研究から、SITH-1に対する抗体が何らかの疾患特異的なエピトープやSITH-1タンパクの立体構造を認識する可能性も出てきた。平成28年度は、これらのことも考慮して、精神疲労のバイオマーカーとなる抗SITH-1抗体の高感度で特異性の高い測定法を開発する予定である。
次年度使用額が77円となった理由ですが、物品購入の際にできるだけ低価格で購入できる業者を探したために、予定よりも低価格で購入することができたために生じたものです。
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PLoS ONE
巻: 11(1) ページ: e0146449
10.1371/journal.pone.0146449
巻: 10(3) ページ: e0119578
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Dementia and geriatric cognitive disorders extra
巻: 5(1) ページ: 64-73
臨床透析