研究課題
昨年度までの研究により、マウスの疲労モデルにおいて疲労に関連する分子バイオマーカー候補を複数同定した。そこで、これらを用いて運動負荷による疲労と、睡眠不足による疲労を検討したところ、これらの候補分子は何れの疲労においても増加し、運動疲労と睡眠不足による疲労に関与する分子が類似していることが示唆された。運動負荷による疲労と睡眠不足による疲労は、一見、身体疲労と精神疲労のモデルであると思えるが、モデルマウスで得られた結果を冷静に分析すると、運動の疲労は身体疲労であることは自明であり、睡眠不足の疲労も、いわゆる精神疲労というよりは、体が疲れた状態、即ち身体疲労の一種であると考えられた。ヒトの身体疲労と精神疲労の特徴を整理すると、身体疲労が休息によって速やかに改善するのに対し、いわゆる精神疲労は休息をとっても簡単には改善しないという特徴があることが判った。休息によって改善しやすいかどうかは、生理的疲労と病的疲労を分ける重要な診断基準である。これらのことから、身体疲労とは即ち身体的な原因によって生じる生理的疲労のことであり、精神疲労とは精神的な要因によって生じる病的疲労と同じものを示していることが示唆された。次に、生理的疲労である運動疲労および労働による疲労と、病的疲労であるうつ病、慢性疲労症候群、睡眠時無呼吸症候群の疲労における唾液中のHHV-6、HHV-7の量を検討した。この結果、生理的疲労ではHHV-6、HHV-7ともに有意に増加するのに対し、病的疲労ではHHV-6、HHV-7ともに減少する傾向があることが判った。これらの結果から、唾液中のHHV-6、HHV-7は、身体的疲労と精神疲労を区別するバイオマーカーとして使用可能であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
唾液中のHHV-6、HHV-7が、運動や労働といった身体的要因が原因となる生理的疲労にのみ反応して増加することが判ったことで、疲労感を感じている人において唾液中HHV-6、HHV-7が増加していれば身体疲労と判定でき、増加が見られなければ精神的な問題によって疲労が生じる病的疲労であると判定できることが判った。これにより、本研究は当初の目的である、ヘルペスウイルスを利用して精神疲労と身体疲労と鑑別するという目標を一応達成することができたと考えられる。しかし、できれば精神疲労を積極的に判別できるマーカーがあるに越したことはないので、更なる研究を重ねて、精神疲労特異的な分子マーカーの検索を続行する予定である。
精神疲労特異的な分子マーカーとして、精神的疲労の結果として生じる脳の疲労が危険因子である認知症に特異的な分子マーカーが利用できる可能性がある。脳の疲労の原因となるストレッサー負荷がDNAメチル化を引き起こすことが知られているので、認知症患者に特異的なDNAメチル化部位を同定した。今後は、これらを手がかりに精神疲労特異的分子マーカーの同定を進める予定である。
平成27年度と28年度に計画していた研究計画が順調に進み、研究成果の取りまとめに時間を費やしたため、次の実験の開始がやや遅れたためです。
平成28年度から29年度にかけて計画している実験計画が整ったので、速やかに実行に移す予定です。このため、平成28年度に使用しなかった研究費も平成29年度に有効に活用させて頂く予定です。
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