研究課題
先の科研費研究において、健常なマウスを豊かな環境下で飼育すると、自発的運動が増加し、前頭皮質および海馬において約100 種類の分子の発現が増加することをDNAアレイ解析によって明らかにした。本研究では、発現が増加した分子がタンパクレベルで増加しているかどうかを確認し、あわせてその機能について解析を開始した。C57BL/6J系雄性マウスを回転かご付きのケージで4週間飼育後断頭し、前頭皮質を摘出しサンプル調製を行った。対照群は不動性の回転かごを設置したケージで4週間飼育したものとした。DNAアレイ解析で発現レベルが高かった分子について、ウェスタンブロット法で確認したが、神経伝達物質関連酵素(TH, NET, DAT)とも統計学的に有意な増加が確認できなかった。現在、細胞増殖関連分子の発現解析を行っている。合わせて、1分子の発現増減ではなく、複数の分子群に着目し、新たにパスウェイ解析を開始し、脳レジリエンス機能の亢進に繋がるシグナル伝達の解明を進めている。また、精神疾患の中でもPTSDに着目し、遺伝子改変動物を用いたモデル動物の作製に取り組んでいる。前脳特異的コレシストキニン受容体2過剰発現マウスを用いて、幼若期(4週齢時)に社会心理的ストレスを負荷し、青年期(7~8週齢時)に文脈的すくみ行動を観察し、野生型マウスと比較した。その結果、この遺伝子改変マウスは野生型マウスより強いすくみ行動を示した。この行動はSSRIの前投与によって緩解された。今後はこのモデルマウスと健常マウスとの違いについて神経科学的に検討し、別の視点からもレジリエンスの機構について検討する。
2: おおむね順調に進展している
上記のように単一分子の発現増減については当初立てた仮説のようにダイナミックなタンパクレベルでの発現変動はなさそうである。このことは申請段階でもありうることと想定していたので、初年度の後期はパスウェイ解析を進めるよう準備をはじめ、初年度末には解析を開始した。従って、想定の範囲内の遅れはあったものの、概ね順調に進展している。
単一分子の発現の増減だけでなく、広く複数の関連ある分子群の変化をとらえることを視野に入れ解析をはじめている。パスウェイ解析を中心に行い、賦活化あるいは抑制するシグナル伝達を制御する化合物の設計を進める。
試薬の納品が遅れ、本年度納品となったため、本年度分と合わせて使用する。
引き続き本年度の実験計画に則って使用する。
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Neuropsychopharmacology
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