研究課題
より健康に、かつ心豊かに過ごすことは、少子高齢社会となった我が国において最も重要なことであるが、ストレスによるうつ病や不安障害などによって社会生活すらままならない人が増えている。私はこれまでに、治療薬開発のためにヒトの疾患に類似した精神疾患モデル動物を作製することに取り組んできた。そこで、これらのモデルを活用し、精神疾患を発症する前に自らの力によって予防することを意識した研究を進めることを開始した。統合失調症様モデルマウスを用いて、遊具を備えた広いケージ内で4週間飼育するとその症状が緩解し、その飼育遊具の中で利用率が最も高かった回転かごのみを設置したケージ内で飼育しても同様に症状が緩解されることを見出した。そこで本研究では、回転かごを設置したケージで4週間飼育したのちに活性化される複数分子の動きについてネットワーク解析を行った。本研究では、6週齢のC57BL/6J系雄性マウスを回転かごのみを設置したケージ(RWC-15、メルクエスト)内でマウスを4週間飼育後、脳を取り出し、前頭皮質を摘出した。脳片からmRNAを抽出し、Mouse Whole Genome Bioarray 用プレートを用いて、遺伝子発現解析後、そのデータを基にパスウェイ解析によって、ストレス抵抗分子群のニューロンネットワーク解析を行った。なお、対照群は回転かごの無い通常ケージで4週間飼育したものとした。その結果、生体膜脂質に関連した合成・代謝系のシグナルネットワークが亢進していることが分かった。今後はこのネットワークを調整できる化合物を選択あるいは設計・合成し、予防に生かしたい。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題申請時に立案した実験計画(開始1および2年目)について、概ね実行できた。
生体そのものが有するストレスに対する抵抗力は、「レジリエンス」と呼ばれる。脳が病気にならないための防御機構の一部として、この経路が活性化されているのかもしれない。現在、これらに関連するタンパク質の発現及び酵素活性について検討を続けている。今後もこの検証を続けることによって、(1)哺乳類の有する脳のストレス耐性メカニズムの解明、(2)患者の視点に立った新たな予防法や治療法の開発へつなげていきたい。レジリエンスに焦点を当てた基礎医学的創薬研究は世界的に見てもほとんど例がなく、この成果がきっかけとなって、精神医学領域だけでなく、薬学研究に広がっていくことを期待している。なお、本成果の一部については、英文論文として投稿中である。
試薬などをキャンペーン価格等で購入したため差額が生じた。
引き続き、計画にのっとって使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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