研究実績の概要 |
本研究は,交替勤務従事者の生活環境を想定し,明暗環境に生体リズムが同調するまでの期間に生じる薬物の体内動態と薬理効果との関係を明らかにすることで,交替勤務従事者に対する新しい糖尿病薬物治療計画を設計するための研究基盤を確立することを目的とした. 今年度は,昨年度生じた共同研究機器の故障のため実施できなかったTBの体内動態の検討を中心に行った.照明を自動制御できる代謝ケージにWistar系雄性ラット(7週齢)を個々に入れ,明期:暗期=1:1の24時間周期の明暗環境下で1週間以上飼育した.その後,明暗環境を8時間後退させ(Day 1),Day 12まで継続して飼育した.すでに宮崎らが報告しているDay 0のデータ(ZT12 h)に比べDay 3, 5では血漿中TB濃度推移は高く推移し,Day 0, 3における消失は2指数関数式,Day 5は1指数関数式にしたがった.速度論解析の結果,これらはDay 3, 5において分布容積が顕著に低下すると考えることで説明することができた.すなわち,明暗環境に伴った動物の活動が変化したために体内水分量が低下し,結果的にTBの分布が制限を受けたためと考えられた.しかし,血漿中アルブミン濃度の測定結果からTBの血漿中タンパク結合率に顕著な変化はないと考えられた.なお,6月に発生した大阪府北部地震により本学は大きな被害を受け,動物飼育および種々の実験を数週間中断せざるを得ない状態となった. これまでの研究期間を通して明暗環境に対する脱同調下に着目した検討を行った.その結果,明暗環境を8時間後退させる生活環境は,生理的な血糖値やインスリン感受性に影響を与えるだけでなく,TBの体内動態やインスリン分泌能にも顕著な影響を及ぼすことが明らかとなった.これは交替勤務に従事する糖尿病患者に対して,勤務体系に応じた投与設計が必要であることを示唆するものである.
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