研究実績の概要 |
本年度は主に、概日リズム異常を示すVPAC2ノックアウトマウスを用いて、時刻特異的運動負荷による生理機能の日内リズムの回復を試みた。日内リズムの減弱化と活動相の前進を示すVPAC2ノックアウトマウスに対して、時刻特異的にランニングホイールを使用させ、日内リズムへの影響を測定した。その結果、暗期にのみランニングホイールへのアクセスを可能にした場合に、明期の後半に見られていた活動が抑制され、暗期の活動が増加する効果が確認された。また、昨年度に引き続き、重水が体内時計に及ぼす周期延長効果の解析を行った。組織培養系では、培養液中の重水濃度が70%を超える場合でも、視交叉上核、肺、腎臓の概日リズムが維持された。この時、リズムの周期は重水の濃度依存的に延長し、濃度70%では30時間を超えて長周期化した。 期間全体を通して得られた成果は、以下のとおりである。本研究は、末梢組織の体内時計を人為的に操作し、遺伝子変異や疾病などで損なわれた日内リズム機能の回復を目指した。概日リズムが減弱している遺伝子変異マウス(CLOCK, VPAC2)は、休息期にも摂食や輪回し運動を頻繁に行う。本研究では、摂食と運動のタイミングを人為的に調節することで、自発的活動および末梢組織の遺伝子発現における日内リズムの振幅を増強することができた。この結果は、適切な時間帯に食事や運動負荷を与えることで、減弱した末梢体内時計と生理機能の日内リズムを回復できる可能性を示す。また、CLOCK変異マウスの視交叉上核では、野生型に見られる領域的位相差が失われていることを発見した。数理モデルによる解析から、細胞レベルでのリズム減衰がその原因であることが示唆された。CLOCK変異マウスは夜間の光暴露などの刺激によって体内時計の位相が大きく動くことが知られており、視交叉上核の領域的位相差の喪失が、その一因である可能性を示した。
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