研究実績の概要 |
哺乳類や鳥類等の恒温動物では、生殖腺のみならず「脳」も性分化することで内分泌・行動の雌雄差が形成される。従来、これらの動物では発達期に性腺から分泌される性ステロイドホルモンが脳に働くことで性特異的な構造・機能が形成されると考えられてきた。一方で、脳の染色体の性も脳の性差形成に重要な役割を果たすことが、これまでの我々の研究などから明らかになっている(Maekawa et al. Nature Communications, 2013)。しかしながら、このような脳の性差の違いが環境要因によってどの程度修飾されるかについては未だ十分に解明されていない。本研究では、鳥類で誘導される性ホルモン依存的な脳の性差と染色体依存的な脳の性差をそれぞれ形成する分子基盤の解明を目指して、視床下部で性特異的に発現する遺伝子の探索を行った。その結果、雌雄で発現量が異なる遺伝子群を見出した。また、その中でも特に性染色体上に存在する遺伝子群を同定することができた。さらに、性ステロイドホルモンの中でもエストロゲン作用を示すエチニルエストラジオールを胚期に投与された鳥類脳において、エチニルエストラジオールを投与しない群と比較して性染色体上に存在する遺伝子の一部の発現量が変化することが明らかになった。加えて、鳥類の中でも性ステロイドホルモンの分泌量が異なる2系統の行動を解析し、性ステロイドホルモンの影響の下流で変化すると考えられる遺伝子を見つけ出すことができた。性染色体上に存在する遺伝子群、存在しない遺伝子群の双方で性ステロイドホルモンによって制御される遺伝子を発見することができ、環境要因によって変化しやすい遺伝子候補のリストを確立することができた。
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