研究課題
一酸化窒素(NO)は、小胞体膜に局在する1型リアノジン受容体(RyR1)の3636番目のシステインをS-ニトロシル化修飾して活性化し、細胞質にカルシウムを放出する。この現象をNO-induced calcium release (NICR)と呼ぶ。本年度は、S-ニトロシル化修飾を受けるシステインをアラニンに置換したRyr1C3636Aノックインマウスを用いた解析をさらに進めた。Ryr1C3636AノックインマウスはRyR1の発現やリアノジン結合能、CICR活性が野生型マウスと差が見られず、正常であった。これらの結果は論文としてまとめ、神経細胞死におけるNICRの病態生理学的な意義と共に発表した(Mikami et al., EBioMedicine, 11, 253-261, 2016)。骨格筋におけるNICRを観察するために、骨格筋初代培養細胞を用いてカルシウムイメージングを実施したところ、神経細胞よりもより低い濃度のNOドナー化合物によって細胞内カルシウム濃度の上昇や発火頻度の増加が確認できた。一方、Ryr1C3636AノックインマウスではNICRが見られなかった。さらに、細胞内でのNO産生もイメージングにより捉えることに成功した。現在、NICRの病態生理学的な意義を明らかにすることを目的として、骨格筋への負荷により生じる変化を野生型マウスとRyr1C3636Aノックインマウスとの間で比較する実験を進めている。なお、2017年3月の第90回日本薬理学会年会では、レドックスシグナルに関するシンポジウムをオーガナイザーとして開催し、NICRの病態生理学的意義について発表し、広く意見を交換した。また、NOをはじめとするガス状生理活性物質に関する総説も発表した(Mikami et al., Int. J. Mol. Sci. 17, E1652, 2016)。
2: おおむね順調に進展している
中枢神経系に関連する解析に並行して、Ryr1C3636Aマウスの骨格筋についての基本的な性質を解析することができた。解析機器や解析系の立ち上げも順調に進んでいる。マウスの繁殖も支障なく進んでおり、今後の解析をスムーズに進めていくことが可能であることから、順調に進展していると評価した。
分子・細胞レベルにおいては、初代培養骨格筋細胞を用いたイメージングの手法を活用して、NICRについて検証を進めていく。個体レベルについては、トレッドミル走行試験を導入し、短期的・長期的なトレーニング実験を介して、疲労度や筋肥大、骨格筋組成の変化などを計測し、野生型マウスとRyr1C3636Aノックインマウスを比較する。さらに、エネルギー代謝器官としての骨格筋の機能にも着目し、NICRの生理的、および、病態生理学的な意義を明らかにする。
順調に研究が進行し、また、キャンペーンなどを活用して消耗品の購入を行ったため、使用額も少なく研究費を使用できたため。
骨格筋の機能解析や形態学的な解析に多く費用がかかることが予想されるため、これらに使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (7件) 備考 (2件)
脳科学辞典
巻: ‐ ページ: -
10.14931/bsd.7107
The European Journal of Neuroscience
巻: 44 ページ: 2004-2014
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10.3390/ijms17101652
http://www.toho-u.ac.jp/med/lab/lab_uniphysio.html
http://calcium.cmp.m.u-tokyo.ac.jp