研究課題/領域番号 |
15K08229
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
今村 武史 鳥取大学, 医学部, 教授 (00552093)
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研究分担者 |
森野 勝太郎 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (90444447)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂肪酸受容体 / 幹細胞機能 |
研究実績の概要 |
本研究代表者はこれまでにω-3長鎖不飽和脂肪酸受容体であるGPR120、および短鎖脂肪酸受容体GPR43がそれぞれに、インスリン抵抗性環境下において代謝改善作用を有することを報告した。その後我々は、GPR43およびGPR120が霊長類多能性幹細胞(ヒトiPS細胞、サルES細胞)に高発現していることを見出し、これらの受容体が幹細胞機能を亢進させることで組織再生を介した代謝改善効果を顕すのではないかという仮説を検証している。そこで本研究計画では、ヒト臨床への外挿が容易な成果を目指し、培養ヒト多能性幹細胞(iPS細胞)を用いることにより、(1)ヒト幹細胞における脂肪酸受容体GPR43、GPR120作用の同定、および(2)幹細胞分化過程におけるGPR43およびGPR120受容体作用について解析している。これまでの成果として、(1)培養ヒトiPS細胞(clone:201B7)にGPR43あるいはGPR120アゴニスト、あるいはあるいはアンタゴニストを24時間附置後、レゾルフィン蛍光アッセイによる幹細胞増殖能定量解析を行ったところ、有意な変化は認められなかった。一方、(2)三胚葉特異的分化マーカー遺伝子発現量のリアルタイムPCR解析では、一部の中胚葉系マーカーのmRNA発現がGPR120アゴニスト附置により有意な上昇を示すことを見出した。また、GPR43アゴニスト附置によっては有意な変化を認めなかった。GPR120脂肪酸受容体ノックダウン用siRNAを導入したヒトiPS細胞では上記のGPR120アゴニスト作用が消失することを確認した。現在、GPR120ノックダウン用shRNA発現ベクターを導入した、より効率的なGPR120ノックダウン・ヒトiPS細胞株の樹立を図っており、サル個体への細胞移植実験を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画におけるヒトiPS細胞クローンを用いた実験項目は滞りなく実施できている。その成果として我々は、培養ヒトiPS細胞にGPR43あるいはGPR120アゴニスト、あるいはGPR120特異的小分子アゴニストあるいはアンタゴニストを24時間附置し、幹細胞増殖能をレゾルフィン蛍光アッセイにて定量解析した。その結果、ヒトiPS細胞増殖能に有意な変化は認められなかった。また、幹細胞分化能について、三胚葉特異的分化マーカー遺伝子発現量をリアルタイムPCRにより解析した結果、中胚葉特異的分化マーカーの遺伝子発現が亢進することを見出した。 一方、ヒトiPS細胞にGPR120ノックダウン用shRNA発現ベクターを導入した脂肪酸受容体ノックダウン・ヒトiPS細胞株の樹立については、GPR120タンパク発現量が樹立時においては対照細胞株に比し約70%減少したが、継代数の増大と共に約40%減少へとノックダウン効率が減少することが判明した。この原因はサイレンシング効果と考えており、構造の異なるshRNA発現ベクターに組み替えて改善を図っている。安定したGPR120ノックダウン・ヒトiPS細胞株が樹立でき次第、サル生体内幹細胞移植実験による幹細胞機能評価を計画通り進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究計画において未実施となっているサル生体内幹細胞移植実験に注力する。ヒト多能性幹細胞から機能細胞への分化過程におけるGPR120受容体作用を検討には、骨格筋細胞に分化誘導が可能なiPS-MyoD細胞にGPR120ノックダウン用shRNA発現ベクターを導入した脂肪酸受容体ノックダウン・ヒトiPS細胞株を用いてサル生体内幹細胞移植実験を実施する。正確な定量評価を得るには安定したノックダウン効率を有するGPR120ノックダウン・ヒトiPS細胞株の樹立が必要である。現時点では、樹立時においてGPR120ノックダウンが対照細胞株に比し約70%減少したが、継代数の増大と共に約40%減少へとノックダウン効率が減少する問題点が判明した。改善策として、構造の異なるshRNA発現ベクターに組み替える他、異なるRNAi標的配列を用いたshRNAベクターを追加し、安定的かつ効率的なノックダウン細胞株の樹立を図っている。樹立でき次第サル生体内幹細胞移植実験を進め、今年度内に実験計画を終了することは可能であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度後半に、所属異動による研究室移転を行ったため、当初予定の物品購入を一部遅らせたことによる残額を生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように、研究室移転に伴い購入を遅らせた研究備品・消耗品購入を次年度当初に予定しており、繰越し額および次年度予算額は計画通り使用する予定である。
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