研究課題
糖代謝恒常性の維持は生命に必須の反応であり、複雑かつ高度に調節がなされている。膵島は血糖調節の中心的役割を果たしており、膵島機能の維持は、糖尿病の治療及び発症予防の中心的命題である。一方、エネルギー過剰摂取など生活習慣に端を発した2型糖尿病 (T2DM) の発症には、マクロファージによる慢性的な炎症機転が極めて重要である。すなわち、肥満に伴い脂肪組織に浸潤した炎症性マクロファージは、サイトカインやアディポカインの分泌異常をもたらし、全身のインスリン抵抗性を惹起する。さらに近年、肥満やT2DMの病態では、膵島組織に炎症性マクロファージが浸潤し、膵島機能不全の直接的な原因となることが明らかとなっている。プロスタグランジンE2-EP4受容体シグナルはマクロファージの炎症性活性化を抑制する (Minami M, et al. J Biol Chem, 2008)。従って、EP4受容体シグナルによるマクロファージの活性化制御は、脂肪組織の炎症や膵島機能調節などを通じて、多面的な抗糖尿病作用を有する可能性がある。本研究の目的は、EP4受容体シグナルによる抗糖尿病作用の解明を通じて、新規メカニズムに基づく抗糖尿病薬の開発を目指すことである。平成27年度は、当初の研究計画通り、2型糖尿病モデルマウスにEP4受容体アンタゴニストを投与し、耐糖能やインスリン抵抗性などの表現型の検討を行った。薬理学的介入実験により、EP4受容体刺激が脂肪組織マクロファージの炎症性活性化を抑制し、抗炎症型 (M2) への分化を促進することで、抗糖尿病作用を示すことを明らかにした。さらに、腹腔マクロファージを用いた検討により、EP4受容体シグナルによるM2型マクロファージへの分化誘導には、核内転写因子PPARが重要であることを示し、これらを併せて報告した (Yasui M, et al. PLoS One, 2015)。
2: おおむね順調に進展している
上記の通り、本研究の最初のステップであるEP4受容体シグナルによる抗糖尿病作用については、EP4受容体アゴニスト投与による脂肪組織の慢性炎症の抑制、すなわち脂肪組織マクロファージのM1型からM2型への極性変化を証明し、研究成果を下記学会で発表し、さらに国際誌に投稿・出版に至った。一方、当初の研究計画に示した、EP4受容体シグナルの膵島機能調節作用については、上記と同様の薬理学的介入による、in vivoでのグルコース応答性インスリン分泌能の検討や、膵島浸潤マクロファージの極性変化などについて、予備的検討を行った。さらに、マウスマクロファージ様細胞であるRAW264.7細胞と膵β細胞株MIN6細胞の共培養系を用い、EP4受容体アゴニスト前処理の有無による、高血糖刺激によるインスリン分泌やMIN6細胞機能変化について予備的な検討を行い、マクロファージを介したEP4受容体シグナルによる膵β細胞機能調節のメカニズムについて解析を進めている。
引き続き、マクロファージを介したEP4受容体シグナルによる膵β細胞機能調節のメカニズムについて、in vivo、in vitro両面から解析を進め、研究成果をまとめ報告を行う。既知のインスリン分泌シグナルとの相互作用など、標的となる分子機序を明らかにし、新規の膵島機能維持メカニズムとしてのEP4受容体シグナルの役割を検討する。一方、EP4受容体シグナル関連分子として、我々はEPRAPに着目し研究を進めている。我々は独自にEPRAP遺伝子欠損マウスを作製し、EPRAPがEP4受容体シグナルによるマクロファージの炎症性活性化抑制作用を担う分子であることを明らかにした (Nakatsuji M, et al. PLoS Genet, 2015)。EPRAP遺伝子改変動物を用いて2型糖尿病モデルの作製を行い、表現型の解析を通じて、EPRAPの糖代謝恒常性維持機構への関与を、in vivo、in vitro両面から詳細に検討する。
平成27年度は、本研究の最初のステップであるEP4受容体シグナルによる抗糖尿病作用について、疾患モデルの作成ならびに表現型解析に注力し、その結果、上述の通り順調に研究の進展をみた。研究経費の内訳では、「その他」として学会発表用ポスター作成費を支出した他は、研究の遂行に必要な物品費(研究消耗品購入費)にあて、これらについても、新規購入を極力控え同等品への切り替えなどの努力を行い、最小限の支出にとどめた。
次年度以降も、比較的多額の経費を要する疾患モデル動物を用いた研究が中心であり、本年度の繰越分を有効に活用し、十分な研究成果を得るべく、研究全体を俯瞰し計画的にかつ適切に執行する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
J Clin Oncol
巻: 33 ページ: 4015-22
10.1200/JCO.2015.62.3397.
PLoS One
巻: 10 ページ: e0136304
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PLoS Genet
巻: 11 ページ: e1005542
10.1371/journal.pgen.1005542.