研究課題
Pilocarpineによって活性化されたm2ムスカリン性アセチルコリン受容体(m2R)が引き起こすG蛋白質シグナル伝達は、G蛋白質シグナル調節タンパク質RGS4の存在下では、膜電位の過分極によって抑制される。昨年度はこの現象を反応速度論的に解析した。その結果、膜電位を急激に脱分極もしくは過分極させた後、変化後の膜電位における新しい定常状態には非常に早く(1秒以内)達することから、代謝的な反応の結果起こるのではなく、受容体とシグナル伝達蛋白質の機能共役の可逆的な変化を原因としていると考えられた。本年度はこの電位依存的な現象に関わるm2R内の構造基盤を探求した。DRY motifと呼ばれるm2Rを含むクラスA GPCRで保存された配列は、受容体のアゴニスト依存的な構造変化に関わることが良く知られているが、この部位に変異を入れるとm2Rの電位依存的な構造変化が抑制されることも報告されている。そこで我々もm2RのDRY motifに点変異を導入し、Pilocarpine刺激下での細胞応答の電位依存性を評価した。その結果、この変異体では電位依存性が重篤に損なわれていた。一方、G蛋白質との相互作用に重要だとされる細胞内ループ3の変異体では、電位依存的な応答の定常に達するまでの速度が遅くなるが、変化する規模には影響はなかった。またm2RとRGS4の相互作用を生理学的に評価するため、蛍光でラベルしたm2RとRGS4間で蛍光相互相関分光法(FCCS)や共鳴エネルギー移動(FRET)法による相互作用解析が可能か共同研究を行って検討した。FCCSでは焦点を通過する蛍光粒子を解析するが、測定時間中、m2Rは膜上でほとんど移動せず、退色が問題となった。FRET解析では、今回我々が試したいくつかのコンストラクトの組み合わせでは、膜電位を変化させてもFRET効率の有意な変化を認めなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度計画した研究は順調に実施された。前年度の研究と合わせて、m2ムスカリン性アセチルコリン受容体のRGS4を介した新しいシグナル伝達機構の特性とその構造基盤に関する理解が大きく進んだ。得られた成果は、学会で発表し、専門家と議論した。また当初の計画を前倒しし、論文の執筆にも着手した。論文原稿を学術雑誌に投稿し、専門家による査読を受け、改訂が必要であった。査読者が求めた追加実験の実施や、m2RとRGS4の相互作用を評価する生理学的実験手法の開発にも取り組み、次年度(第三年度)に論文作成のために計上していた予算を、本来の目的のまま、前倒し支払い請求して本年度使用した。この状況から、本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
次年度(第三年度)は本課題の最終年度であり、本課題で得られた成果を体系化し纏めると同時に、次の重要課題を整理することが重要である。研究者への情報発信に関しては、現在査読を受け改訂している論文を学術雑誌に掲載させる。これにより、本課題の成果が専門家にどのように評価されるのか、それを客観的に問うのに必要な状況が整う。一般への情報発信に関しては、研究室ホームページなどを利用した解説や、論文発表時には可能であればプレスリリースも行なう。次の重要課題を整理のために、最終成果の学会発表も積極的に行って、関連分野の研究者と議論することが有効である。
本課題は全体としては当初の計画よりも順調に進行し、本年度は前倒し支払い請求を行って、論文発表の準備をおこなった。論文改訂時に、査読者から提案された追加実験を行ったが、一度目の改訂時には必要最低限の実験のみを行ない、一部の疑念は反証で説明することにした。
繰り越した次年度使用額は、当初の計画通り、論文発表に必要な経費に使用する
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
npj Systems Biology and Applications
巻: 3 ページ: -
10.1038/s41540-016-0001-0
eNeuro
巻: 3(3) ページ: -
10.1523/ENEURO.0138-16.2016