研究課題
哺乳類の心筋細胞は生直後に増殖能を大きく失うことから、心筋組織の恒常性維持には心筋保護シグナルが重要であると考えられている。我々は、これまで、IL-6ファミリーサイトカインが心筋細胞死抑制や心筋組織内血管新生を介して心筋組織保護に寄与していることを報告してきた。特に、現在、IL-6ファミリーサイトカインのひとつであるIL-11を用いて急性心筋梗塞に対する心筋保護治療に関する臨床試験を行っている。我々はこれまで、IL-6ファミリーサイトカインが心筋細胞に保護シグナルを伝達する上で、STAT3分子が重要であることを示してきた。近年、癌など様々な細胞でSTAT3の下流シグナルであるPim-1キナーゼの重要性が注目を浴びるようになってきたが、心筋細胞におけるSTAT3/Pim-1シグナルの生物学的意義は十分には検討されていない。本研究では、心筋細胞におけるPim-1キナーゼの基質を探索することで当該シグナル機能を明らかにすることを目的としている。まず、培養心筋細胞でPim-1を過剰発現し、リン酸化が増強されるタンパク質を見出した。このタンパク質は、IL-11などのIL-6ファミリーサイトカインの刺激でリン酸化されること、そのリン酸化は抑制型STAT3の過剰発現、抑制型Pim-1の過剰発現により抑制されることから、STAT3/Pim-1シグナルの下流に存しているものと考えられた。今後は、in vivoでのこのシグナルの意義を検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、心筋細胞におけるSTAT3/Pim-1シグナルの下流を探索、同定することを目標としていたが、今回、心筋細胞におけるPim-1キナーゼの基質としてeIF4Bを同定した。これまで、eIF4BがSTAT3の下流で機能するという報告はない。STAT3という転写因子としての機能を有するシグナル伝達分子が、eIF4Bという翻訳制御分子の機能を調節し得るという点で極めて興味深く、今後の展開が期待される。
今年度以降、以下の方向で研究を進める。1. 培養心筋細胞におけるeIF4Bの意義の解明:培養心筋細胞においてeIF4Bをノックダウンし、心筋細胞の形態および生存性に関する検討を行う。2. マウス病態モデル(冠動脈結紮モデル、実験的自己免疫性心筋炎モデルなど)においてeIF4Bのリン酸化状態を検討する。あわせて、当該モデルで心筋特異的にSTAT3をノックアウトしeIF4Bのリン酸化に対する影響を検討する。3.心筋特異的eIF4Bノックアウトマウスを作製する準備を行う。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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