研究課題
ラット脳初代培養ミクログリアをトル様受容体(TLR)4リガンドであるリポポリサッカライド(LPS)で刺激すると、速やかに細胞死を起こす細胞と長期に生存する細胞が出現する。これまでに、この長期生存ミクログリアは神経保護作用を発揮し、その作用にはアクチビン-AやVEGFなどの保護因子の産生が関与する可能性を明らかにしてきた。また、これらのミクログリアは隣接する死細胞を活発に貪食し、この死細胞貪食によっても保護的性質を獲得すると推測される。今回、位相差顕微鏡を用いたタイムラプス観察を行い、刺激によるミクログリアの細胞死誘導とその死細胞貪食をリアルタイムに可視化し、個々の細胞の反応を追跡することにより貪食ミクログリアの定量化を行った。P2Y2受容体選択的拮抗薬であるAR-C118925XXはミクログリアの死細胞に対する認識や接触には影響を及ぼすことなく、死細胞の貪食(取込み)を抑制した。P2Y2受容体に親和性をもつ非選択的P2拮抗薬スラミンも同様の抑制作用を示し、一方、P2Y2受容体に親和性のない非選択的P2拮抗薬PPADSは死細胞貪食には無影響であった。これらのことから、死細胞貪食におけるP2Y2受容体の重要性が確認された。これまでに、LPS刺激によりミクログリアのP2Y2受容体は著明に発現亢進することを明らかにしており、炎症時に発現誘導されるP2Y2受容体が死細胞の貪食除去のシステム構築において極めて重要な役割を果たすことが示唆された。そのメカニズムの一つとして、死細胞が表出するホスファチジルセリンを目印として貪食を仲介するTAM受容体の発現をP2Y2受容体が制御する可能性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、TLR4活性化により長期生存するミクログリアは神経保護作用を発揮すること、その作用機序には少なくともアクチビン-AとVEGFの産生が関与する可能性を示してきた。このうちアクチビン-AはP2Y2受容体の活性化を介して誘導される。今回さらに、もう一つのミクログリアの重要な機能である死細胞貪食においてもP2Y2受容体が重要な役割を果たすことを明らかにした。このように炎症時に保護的に働くミクログリアの機能においてP2Y2受容体が鍵となるメカニズムについて新しい知見を得ることができたことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
TLR4活性化により発現亢進するP2Y2受容体がミクログリアの神経保護機能の発揮や死細胞貪食をどのように制御するのかを分子レベルで明らかにしていく。さらに、アストロサイトとの相互作用についても解析を進めていく。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Neurochem. Int.
巻: 93 ページ: 82-94
doi.org/10.1016/j.neuint.2016.01.003
PLoS One
巻: 11 ページ: e0147466
doi.org/10.1371/journal.pone.0147466
Acta Histochem. Cytochem.
巻: 49 ページ: 197-206
doi.org/10.1267/ahc.16029
http://home.hiroshima-u.ac.jp/yakuri/