ミクログリアは異物や死細胞を貪食除去するとともに保護的因子を放出し脳組織の恒常性維持に重要な役割を果たす。一方、過剰な活性化は大量の炎症性因子を放出し神経傷害を引き起こす。これらの相反する作用は、異なる性質をもつミクログリアのサブセットにより発揮される可能性がある。これまでにラット初代ミクログリアにおいて、LPSによるトル様受容体4(TLR4)活性化に対して異なる反応を示す細胞サブセットの存在を明らかにしてきた。そのうち、LPS刺激により長期生存するサブセットは死細胞貪食と保護因子アクチビンやVEGFを産生し、これらの反応にはいずれも細胞外ヌクレオチド受容体であるP2Y2受容体が関与する。このP2Y2受容体は細胞外ATPの単独刺激によっても発現上昇するユニークな制御機構をもつことから、細胞外ATPが上昇する炎症時に特異的に発現上昇し炎症に関連する重要な機能を担う可能性が示唆された。ミクログリアは炎症性メディエータと同時に抗炎症性因子も産生し、過剰な反応を抑制するフィードバック機構をもつ。細胞外ATPはLPS誘発性の抗炎症性サイトカインIL-10の産生を著しく増強し、さらにこの作用はP2Y13受容体拮抗薬により抑制された。また、保護因子アクチビンの発現はATP単独刺激で誘導され、この作用にもP2Y13受容体の関与が示された。一方、炎症性サイトカインTNFの発現はP2Y13受容体遮断の影響を受けなかったことから、炎症性因子と保護因子の産生には細胞外ヌクレオチドによる異なる制御機序が関与することが明らかとなった。
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