研究課題
最終年度では、これまでに得た心筋細胞特異的に細胞内へ侵入するアプタマーについて、その相互作用相手(蛋白質と推測)を同定するために、昨年度末から手がけていた光架橋基(ベンゾフェノン基)およびビオチンを修飾した心筋侵入アプタマーの合成を進め、これを用いた相互作用相手の抽出条件を詳細に検討した。最適条件を確立し、心筋侵入アプタマーが特異的に結合しうる蛋白質候補をウェスタンブロットの手法を利用して検出することに成功した。これを足がかりに、アプタマーと相互作用相手の架橋結合複合体をアビジンビーズにて抽出する系を構築し、これを繰り返し実施して、蛋白質の同定が可能となる量の複合体サンプルを確保した。その後、ショットガン質量分析法にて、その抽出された蛋白質の定量および同定を行い、複数の相互作用相手候補の情報を得ることができた。それらの蛋白質において、アプタマーとの結合特性を調べ、さらにアプタマーの細胞内侵入に関与するかどうかについて解析中である。近年、心疾患治療の鍵となる蛋白質が心筋細胞内に多く見出されているが、それらを標的とする薬物では、心筋細胞内に薬物を送達する手段が必要となる。本研究では、その薬物送達システムの基盤となる分子ツールとして、心筋特異的に細胞内へ侵入する核酸アプタマーを作製することに成功した。さらに、心筋細胞内に入ってはじめて機能する薬物をこのアプタマーに搭載することで、心筋細胞内部への送達、そしてその薬効を発揮させることに成功した。本アプタマーは心筋に特異性を持つため、他の組織に作用しにくいこと、また生体内では異物として認識されにくい核酸鎖で構成されているため、ウイルスベクターや蛋白質をベースとしたベクターよりも安全性が高いことが予想される。本研究では、臨床応用において大きなメリットを有した、新たな心臓特異的細胞内薬物送達法を示すことができた。
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Eur. J. Pharmacol.
巻: 814 ページ: 1-8
10.1016/j.ejphar.2017.07.035.