研究課題/領域番号 |
15K08236
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
中野 大介 香川大学, 医学部, 助教 (30524178)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 急性腎障害 / 敗血症 / 乏尿 |
研究実績の概要 |
敗血症性急性腎障害(AKI)の発症機序について、科学研究費を戴き、研究を進めている。平成28年度は国際共同研究加速基金も戴き、海外研究機関との協力により、本申請研究のみでは達成しえなかった成果も得ることができている。本申請研究における具体的な成果として、①敗血症における全身性炎症と近位尿細管における尿生成障害との関係探索、②近位尿細管におけるTLR4 conditional-KOマウスを作成し、イメージングによる尿生成障害解析、③tight junction破綻による腎間質内における体液の貯留、以上3点について、引き続き、検討した。 ①全身性炎症と局所における乏尿の関係を探る目的で、NODscidマウスに敗血症を誘導したが、安定した結果が得られなかった。一方で、脾臓の高貪食活性単球群が細胞保護性、低貪食活性群が細胞障害性のサイトカイン産生を行っていることがわかった。現在、これらのサイトカイン群が直接的にAKI様症状を起こしうるか、検討中である。 ②NDRG1陽性細胞におけるTLR4欠失モデルマウスの作製に成功した。このマウスにおいてはLPSによる乏尿がほぼ解消されており、内毒素症AKIにおける乏尿の誘導因子であると考えられた。このマウスでは①においてclodronate liposome低用量により観られた乏尿の増悪も確認できず、近位尿細管TLR4は炎症の上流に位置するという仮説を支持するものである。 ③LPSにより尿細管tight junctionの可逆的な破綻を確認した。これはTLR4阻害により遮断できるため、尿細管局所での乏尿形成メカニズムが確認された。また、AKI中のマウスでは、腎臓内水分塩分量の増大、間質内静止水圧の上昇が確認でき、尿漏出のエビデンスが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進行している。元来想定していなかった機序も発見でき、敗血症性AKI発症における真実の一部が見いだせた。敗血症に対する治療は、抗菌薬・輸液蘇生・血行動態確保からなり、次世代の治療薬候補として最有力なものが抗炎症薬である。本研究においても、特定のサイトカイン・ケモカインの関わりを明らかにする段階に進んでいる。また、それぞれの免疫系細胞の役割が少しずつ明確になってきており、特定の形質を持った免疫細胞の誘導が、今後の治療法開発にとって、重要となる可能性が示された。本研究課題により解析している尿細管液流速は申請者の開発した手法においてのみ測定可能であり、このまま研究を推し進めることで、より多くの知見が明らかとなる。 またここまでの研究により、急性腎障害発症機序のうち、炎症の上流に近位尿細管におけるシグナル系があることもわかってきており、これは急性腎障害の科学に大きなインパクトを与えるものとなる。さらに今回、尿の間質内への漏出の結果と思われる「腎内水分塩分量の増大および間質静止水圧の上昇」が確認できたことは、仮説証明のための大きな収穫である。今後、引き続き未解明の部分を明らかにしていくとともに、平成29年度の実験計画を進めていく。本研究計画の発火点となる研究結果は、米国腎臓学会の刊行する腎臓学の最高峰、The Journal of American Society of Nephrology への掲載を得るに至った。また、本研究計画を基盤として、国際共同研究加速基金も戴き、複数国の参加する研究チームでの、国際的なチャレンジが進行している。これはひとえに本研究により「なぜAKIで尿排泄が滞るのか」という疑問の一部が明確になったことによるものであると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度はおおむね実験計画書に記述した範囲内で進行することができる。また、一部はさらに発展した形で進めることも可能となった。本年度は、仮説証明のために重要な部分として、①尿の漏出経路の同定および②尿細管 - マクロファージという現在判明している乏尿誘導因子の間に存在するメカニズムを解明する必要がある。近位尿細管TLR4-tight junction破綻のメカニズムおよび脾臓由来単球/マクロファージの間質環境増悪の機序を標的として実験を進める。特に後者に関して、研究計画には炎症によるglycocalyx破綻の関与を記している。脾臓由来単球が尿細管に影響を与えるには、毛細血管から間質に浸潤する必要があり、その過程でglycocalyxの存在は非常に重要になると考えられる。乏尿における一連の微小環境変化を連続して解析することにより、仮説証明が実現した際の完成度・科学的重要度が増大した。 また、臨床的にも重要な課題として、急性腎障害を起こすことが全身病態に与える影響の検討を行う。平成27-28年度の大きな成果として、近位尿細管におけるTLR4の欠失がLPS誘導性急性腎障害におけるあらゆる変化を改善することがわかった。このマウスにおける全身性炎症の解析により急性腎障害由来の全身性炎症の関与を探るとともに、腎リンパの結紮等により全身性炎症・多臓器不全を緩解できるかを検討する。
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