本申請の目的は心線維化おける活性酸素産生酵素NOX1/NADPH オキシダーゼの役割を解明することである。申請者は最近アントラサイクリン系抗腫瘍薬のドキソルビシン投与による心線維化がNOX1の遺伝子欠損マウスで抑制されるという実験結果を得た。平成29年度は、心筋培養細胞株(H9c2)を用い検討を行い、心筋死細胞由来物質がTLR4受容体を介し心筋細胞におけるNox1遺伝子の発現を上昇させることを、さらにH9c2死細胞由来物質は心線維芽細胞(CF)の増殖および細胞外マトリックスであるコラーゲンIIIa (col IIIa)遺伝子の発現を誘導することを見出した。一方、ゲノム編集によりNOX1を欠損したH9c2の死細胞由来物質ではCF増殖およびcol IIIa遺伝子発現が有意に抑制された。野生型およびNOX1欠損マウス由来CFでは増殖能に差違は認められなかった。以上から死細胞由来物質により心筋細胞で発現誘導されたNOX1が、CF増殖因子の量もしくは活性を調節していると考えられた。そこでNOX1により調節されるCF増殖因子の探索を行った。H9c2の死細胞由来物質によるCF増殖の誘導はTLR4受容体を介していることを見出し、TLR4受容体のリガンドとなるダメージ関連分子パターン(DAMPs)の候補分子を欠損させたH9c2をゲノム編集法により作製したところ、S100A1を欠損した死細胞由来物質ではCF増殖が抑制されることを見出した。さらにNOX1を欠損したH9c2ではS100A1の遺伝子発現が減少していた。以上の結果から心筋細胞のNOX1はS100A1発現を介し、心筋細胞傷害後の心線維化を誘導することが明らかとなった。
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