近年、リンパ管新生は間質液の排泄や代謝・免疫能の恒常性維持など様々な病態において注目されている。これまでに、炎症や腫瘍増殖時にプロスタグランジンE2がリンパ管新生を増強することを報告してきていたが、最近になり驚いたことに強力な血小板凝集作用や細動脈収縮作用が知られるトロンボキサン(TX)がリンパ管新生を増強することを見出した。一方で、腹膜炎時には腹水が貯留しその排液にリンパ管が大きく関与する。申請者はLPS誘発腹膜炎モデルを用い、腹膜炎時のリンパ管新生を増強するトロンボキサン受容体(TP)シグナリングの役割について検討を進めている。 腹膜炎を惹起させた横隔膜ではリンパ管周囲に顕著なCD3/4陽性T細胞やCD11b陽性マクロファージの集積を認めた。マクロファージ、T細胞いずれもTP受容体発現は認められるが、T細胞でのTP受容体発現はより高発現であった。マクロファージ除去あるいはT細胞活性化阻害処理をそれぞれ行ったマウスでは、いずれにおいてもリンパ管新生が有意に抑制され、またTPKOマウスの骨髄を移植したマウスではリンパ管新生が有意に減少することから腹膜炎モデルにおけるリンパ管新生には骨髄由来のTP発現マクロファージだけでなくT細胞もリンパ管新生増強に関与していることが示唆された。一方、WTマウスから採取したマクロファージおよびT細胞をTPアゴニスト(U46619)で刺激するとVEGF-Cの発現誘導が認められたが、TPKOマウスから採取したマクロファージおよびT細胞ではいずれもVEGF-C発現は抑制された。重要なことに、リンパ管内皮細胞に直接TPアゴニストで刺激しても全く増殖活性を示さないことから、TXによるリンパ管新生のメカニズムの一つとしてマクロファージとTリンパ球がTP受容体を介してVEGF-Cを誘導しリンパ管新生を増強させていることが明らかとなった。
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