研究課題/領域番号 |
15K08242
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
森 麻美 北里大学, 薬学部, 助教 (80453504)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 微小循環 / 緑内障 / 血管生物学 / 網膜血管 / 網膜神経 / NO |
研究実績の概要 |
本研究は、網膜血管と神経との間の相互作用を明らかにすることで、後天性の失明や視覚障害の原因となる緑内障における新規予防・治療薬の探索を目的としている。平成 27 年度は in vivo 網膜血管機能実験を行った。 (1)網膜血管の構造および機能に及ぼす網膜神経の影響の解明 ①網膜神経傷害の程度と網膜血管拡張機能障害との関係:N-methyl-D-aspartic acid (NMDA) 誘発緑内障ラットでは、NMDA投与 2-3日後から網膜神経細胞である視神経節細胞 (RGC) が脱落し始め、その傷害は 7日後にはほぼ最大となる。この時の網膜血管機能を観察するため、NMDA投与 7 日後の緑内障ラットを用いて検討した結果、内皮依存性の網膜血管拡張反応は対照群と同程度であった。なお、NMDA投与 14 日後の網膜血管能が減弱することはすでに報告している。従って、NMDA 投与 3 日後においては検討しなかった。②健常ラットを用いた網膜神経刺激に伴う網膜血管拡張能の検討:RGC に発現している NMDA 受容体刺激薬の NMDA を用い、網膜神経刺激を介した網膜血管拡張能について評価した結果、NMDA硝子体内投与により NMDA 用量依存的に網膜血管は拡張し、この反応は非選択的 NO 合成酵素阻害薬により有意に抑制された。③緑内障ラットを用いた網膜神経刺激に伴う網膜血管拡張能の検討:RGC が脱落している NMDA 硝子体内投与 7 日後の緑内障ラットにおいて、健常ラットで観察された NMDA 刺激による網膜血管拡張反応が有意に抑制された。 以上の結果から、RGC の NMDA 受容体刺激により NO が放出され、網膜血管が拡張すること、また神経傷害に続いて血管が障害されることが明らかになり、網膜における神経と血管との間に相互作用があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) の②健常ラットを用いた網膜神経刺激に伴う網膜血管拡張能の検討において、NMDA 硝子体内投与により生じる網膜血管拡張反応が NO を介していることは示せたものの、この反応が網膜神経刺激による神経型 NO 合成酵素 (nNOS) の活性化によるものか否かについてまで評価することができなかった。従って、③緑内障ラットを用いた網膜神経刺激に伴う網膜血管拡張能の検討において予定していた緑内障ラット網膜の nNOS の発現変動についても未検討となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、NMDA の硝子体内投与により、NMDA 用量依存的に網膜血管が拡張することが示された。この反応は、緑内障ラットにおいて減弱したものの、硝子体内投与する NMDA が高容量になると、減弱の程度が弱くなり、用量反応曲線が右にシフトすることが明らかになった。処置 7 日後の緑内障ラットでは NMDA が作用する RGC の脱落が最大となるため、NMDA の投与量が高容量になっても網膜血管はあまり拡張することなく、反応が頭打ちになると予想していた。今回の検討結果から、高容量の NMDA 硝子体内投与により生じる網膜血管拡張反応は、RGC以外の網膜血管周辺細胞を介す可能性を考えている。そこでまずは、NMDA 硝子体内投与による網膜血管拡張反応にグリア細胞であるアストロサイトやミュラー細胞が関与しているか否かについて、各種細胞の機能阻害薬を用いて検討する。次に、平成27年度に検討する予定であった NMDA 硝子体内投与による網膜血管拡張反応に網膜神経が関与しているか否かを明らかにするため、nNOS 阻害薬等を用いて作用機序の詳細を検討する。また、nNOS等の網膜における発現部位や、緑内障ラット網膜におけるそれら因子の発現変動についても観察する。その後はこれまでの研究計画に従って検討していく予定である。
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