本研究は、網膜血管と血管周囲に存在する神経との相互作用について明らかにすることにより、後天性の失明及び視覚障害の主原因である緑内障に対する新規予防・治療薬の探索を最終的な目的としている。最終年度は以下の実験を実施した。 ①健常ラットを用いた網膜神経刺激に伴う網膜血管拡張能の検討:昨年度までに、網膜神経節細胞に受容体のある N-methyl-D-aspartic acid (NMDA) を眼内 (硝子体内) に投与すると、神経型 NO 合成酵素 (nNOS) 由来の NOによりグリア細胞が刺激され、その結果、網膜血管が拡張することを明らかにした。本年度は、NMDA による網膜血管拡張反応には、NO に加えて、血管拡張性プロスタグランジン (PG) の産生亢進が関与することを明らかにした。②健常ラット網膜における NOS の発現分布:健常ラット網膜において、神経型 NO 合成酵素 (nNOS) は、視神経節細胞及びアマクリン細胞に発現していた。③網膜神経傷害モデルラットにおける検討:視神経節細胞が著しく脱落する網膜神経傷害モデルラットにおいて、NMDA 誘発網膜血管拡張反応は有意に減弱していた。本モデルラットにおける NMDA 誘発網膜血管拡張反応は、健常ラットと異なり、nNOS 阻害薬により抑制されず、誘導型 NO 合成酵素 (iNOS) 阻害薬により抑制された。 以上の結果から、健常時には、NMDA は、1) 視神経節細胞又はアマクリン細胞の nNOS を活性化することにより NO 産生/遊離を亢進させ、グリア細胞を刺激することによって網膜血管を拡張させること、2) 本経路に加え PG が関与する経路も活性化することが明らかになった。一方、網膜神経傷害時には、NMDA による網膜血管拡張には iNOS 由来の NO が関与するようになることが示唆された。
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