研究課題
心筋細胞の興奮収縮連関において中心的な役割を果たしている小胞体Ca2+遊離チャネル/2型リアノジン受容体(RyR2)の変異は、カテコラミン誘発性多型性心室頻拍(CPVT)、特発性心室細動(IVF)、QT延長症候群(LQTS)等さまざまな催不整脈性疾患の原因になることが知られる。これらは、リアノジン受容体の変異が何らかのCa2+調節機構の異常をきたし、不整脈を惹起すると考えられるが、それぞれの疾患の詳しい機序や治療法はまだ確立されていない。本研究計画では、RyR2の様々な変異がどのようなCa2+動態変化を起こし種々の催不整脈性疾患を惹起するのか明らかにし、治療薬探索のための基盤を作ることを目的としている。研究実績は以下の3つに大別される。1.平成27年度から28年度にかけ、様々な変異RyR2を非心筋細胞であるHEK293細胞に発現して細胞質と小胞体Ca2+をモニターし、また[3H]リアノジン結合測定によるCa2+依存性活性の測定から、変異RyR2分子単独の性質を調べた。その結果、催不整脈性RyR2変異体にはgain-of-functionタイプ(CPVT、IVF、LQTS)とloss-of-functionタイプ(IVF、LQTS)の全く性質の異なるものがあり、同じ診断名が付いていてもその機序には正反対のものがある事を見出した。2.平成28年度は心筋系の培養細胞(マウス心筋由来のHL-1細胞、ヒトiPS細胞由来分化心筋細胞)への発現に成功し、心筋環境下の変異RyR2の特性を検討した。活動電位を有する心筋細胞での検証により、Ca2+動態変化から不整脈に至る過程の検討が可能になった。3.この研究の過程で確立したER Ca2+測定法を利用し、共同研究者の協力を得て化合物ライブラリからRyR2に作用する薬物の探索を行い、現在いくつか有望な薬物候補が見出されている。
2: おおむね順調に進展している
計画通り、HEK293細胞を用いた定量的な活性測定法を確立し、変異体の重症度の判定が出来るようになった。また、Ca2+誘発性Ca2+遊離活性と自発的Ca2+オシレーションの関係を見出した。さらに心筋系培養細胞への発現にも成功し、不整脈発生機序の理解の道筋を付けた。さらには、小胞体Ca2+モニタリングによるRyR2作用薬の探索に着手し、実際にいくつかの有望なRyR2作用薬の候補を見出した。これらを考慮すると、計画はおおむね順調に進捗している。
1 HEK293細胞発現系を利用して、変異によるRyR2活性変化と疾患の重症度との相関を検討し、遺伝子診断・RyR2異所性発現解析からのRyR2変異による疾患重症度推定法を確立する。データベースを構築し、社会に発信する2 心筋系細胞を用いた不整脈再現実験から、RyR2変異による不整脈発生メカニズムを理解し、論文発表する。3 化合物ライブラリを利用して見出されたRyR2活性を制御する薬物について、心筋細胞、動物モデル、シミュレーションにより、不整脈に対する効果を検討し、治療薬候補を提案する。
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