研究課題/領域番号 |
15K08251
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
高井 真司 大阪医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キマーゼ / メタボリックシンドローム / 高血圧 / 脂質異常症 / 脂肪肝 / 非アルコール性脂肪性肝炎 / 阻害薬 |
研究実績の概要 |
高血圧を自然発症するラットとして知られるSHR亜種のSHRSP5/Dmerの4週齢雄性に高脂肪+高コレステロール(HFC)餌を与えることにより、高血圧、脂質異常症を呈するメタボリックシンドロームモデルが確立できるのか、そして、臓器障害とキマーゼの継時的に解析した。 具体的には、正常餌群とHFC餌群に分けて、試験開始前、開始後4、8、12、14週の時点で血圧、血中脂質レベル、血中のASTとALT、肝臓組織中のキマーゼの遺伝子発現量、組織切片を用いたヘマトキシリン-エオジン染色、シリウスレッド染色を行った。血圧は、正常餌およびHFC餌の両群で試験前に比べて試験開始後4週以降の全時点で有意に高値を示したが、2群間に有意差はなかった。一方、血中の総コレステロール、AST、ALTの値は、HFC餌群の試験開始後4週以降の全時点で有意に高値を示した。心肥大の指標である心重量/体重比は、試験開始前に比して両群共に試験開始後4週以降の全時点で有意に高値を示したが、両群間には有意差を認めなかった。血管では両群共に明確な動脈硬化病変を認めなかった。一方、肝重量/体重比は、正常餌群では全時点で有意差はなかったが、HFC餌群では試験開始4週以降の全時点で有意な高値を示した。当初の計画では、試験開始後12週の次に16週を解析する計画だったが、14週の時点でHFC餌群は全例肝不全で死亡した。 これらのことより、HFC餌負荷による本メタボリックシンドロームモデルは、肝臓における合併症を解析するのに有用と考えられた。また、肝臓でキマーゼの遺伝子発現の増加と肝臓組織中の脂肪滴と線維化、炎症細胞浸潤程度が正に相関したことより、メタボリックシンドローム合併症の1つと考えらえている非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)形成にキマーゼが関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の目標は、高血圧と脂質異常症を伴うメタボリックシンドロームモデルの確立とそれに伴う臓器障害とキマーゼとの関連性を見出すことであった。SHRSP5/Dmer にHFC餌を負荷することで目的のメタボリックシンドローム発症が確認できた。但し、正常餌群も高血圧自然発症ラット(SHR)の亜種のSHRSP5/Dmerを使用したため、正常餌群でも高血圧を発症し、HFC餌群との間の血圧に有意差を認めなかった。一方、総コレステロール値は、HFC餌群が正常餌群に比して有意に高値を示した。したがって、当初の目標であった高血圧と脂質異常症を伴うメタボリックシンドロームモデルは、HFC餌を与えることで確立できた。 一方、その対照群として正常餌で飼育したモデルも高血圧を発症したためと考えられるが、心肥大の指標である心重量/体重比は両群間で有意差がなく、心臓組織中のキマー遺伝子発現量に有意差はなかった。一方、総コレステロール値が有意に上昇したので動脈硬化の発症をHFC餌群で期待したが、両群共に動脈硬化病変はなかった。その理由として、総コレステロール値がHFC餌群で有意に上昇したが、その上昇率は1.5倍前後と軽微であったため、動脈硬化病変を惹起するほどの脂質異常症ではなかった可能性がある。一方、肝重量/体重比は、HFC餌群で有意に増加し、血中のASTとALTが著明に高値を示した。肝臓組織では著明な脂肪滴、線維化、炎症細胞浸潤を認めるNASHが形成されていることが確認できた。また、肝臓組織中のキマーゼの発現量もNASHの進行と共に増加した。これらのことより、本メタボリックシンドロームの合併症として発症するNASH形成に肝臓組織でのキマーゼ発現の増加が関与する可能性を明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に確立できたメタボリックシンドロームモデルで発症するNASHに対するキマーゼ阻害薬の予防効果を評価すると共にその機序を明らかにする予定である。 平成28年度は、4週齢雄性のSHRSP5/Dmerに正常餌、HFC餌+プラセボ投与、HFC餌+キマーゼ阻害薬投与を行い、12週齢(試験開始後8週)の時点で解析する予定である。この時点を選択した理由は、著明な血中ASTとALTの上昇、そして、肝臓組織中の脂肪滴、線維化、炎症細胞浸潤を伴うNASHが形成されることをこの時点で確認できたためである。解析項目として、体重と血圧を試験開始前、試験開始後4週と8週に測定し、試験開始後8週(試験終了時点)で採血と肝臓を摘出する。血中の総コレステロール値、AST、ALTを測定し、肝臓組織ではキマーゼ遺伝子発現に加えて中性脂肪の産生系および合成系に関連するRac-1、SREBP-1、FASなどの遺伝子発現を測定する。また、線維化形成に関与するTGF-βやコラーゲン、そして、炎症細胞浸潤に関与するMMP-9やTNF-αの遺伝子発現を解析する。NASH発症に関与する可能性が指摘されている酸化ストレスマーカーのマロジアルデヒドや4-ヒドロキシノネナール(HNE)も解析する予定である。 生存率に対する影響も4週齢雄性にHFC餌+プラセボ投与、HFC餌+キマーゼ阻害薬投与の3群で行い、体重と血圧は試験開始後4週毎に測定し、何れかの群の生存率が0%になった時点で試験を終了して肝臓組織の解析を行う予定である。これらの実験により、キマーゼ阻害薬のNASHに対する予防効果を評価すると共にその作用機序を解明する。 平成28年度の実験でキマーゼ阻害薬による予防効果が確認できた場合、平成29年度にはNASHに対するキマーゼ阻害薬による治療効果を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、SHRSP5/Dmer にHFC餌を負荷することで高血圧と脂質異常症が誘発され、心臓および血管の障害が認められると予想した。しかし、心肥大や心線維化、動脈硬化病変などを見出すことはできなかった。また、心臓および血管のキマーゼの遺伝子発現レベルにも変化がなかった。これらのことより、本メタボリックシンドロームモデルでは、心臓および血管の臓器障害を評価することが困難と考えられた。そのため、予定していた心不全に関連するTGF-βやコラーゲンタイプⅠおよびタイプⅢの遺伝子発現や動脈硬化に関連するNADPHオキシダーゼの構成因子、マロンジアルデヒドおよび4-HNEの測定を実施しなかった。これらの解析費用が初年度費用の削減になった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用分として、当初の計画では想定していなかった本メタボリックシンドロームモデルの生存率に対するキマーゼ阻害薬の影響を評価するため、ラット購入費や飼育管理費が計画以上に必要となる。また、NASHの発症および進展に深く関与する可能性が高い因子を新たに測定していくための費用も必要となる。具体的には「今後の研究方策」にも記載したように、肝臓において中性脂肪の産生系および合成系に関連するRac-1、SREBP-1、FASなどの遺伝子発現を測定する予定である。これらの遺伝子発現は他の因子同様にTaqManプローブ法によるリアルタイムPCRにて測定するため、それらのプライマーやプローブを新たに購入する必要がある。また、NASHの解析にはトリグリセリドやその他の脂質因子も測定する必要があるのでそれらの測定に費用も計上する。
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