研究実績の概要 |
エンドセリン(ET)受容体拮抗薬の一つである選択的ETA受容体拮抗薬(ABT-627, 1 mg/kg, i.v.)は雄性ラットの腎虚血再灌流処置(IR)後の腎機能低下(血中尿素窒素及び血漿クレアチニンの増大、並びにクレアチニンクリアランスの低下)に対して有意な改善効果を示した。また、IR後の腎組織において顕著な組織障害像(腎髄質外層外帯における尿細管壊死、内帯における鬱血出血、並びに髄質内層におけるタンパク円柱)を認めたが、これら組織障害はABT-627の投与により明らかに抑制された。一方、雌性ラットの腎機能低下及び腎組織障害は雄性ラットと同様の処置(腎動静脈虚血45分間)では明らかに軽度であり、60分間虚血時は雄性ラットと同程度の悪化がみられたが、いずれの処置時間においてもABT-627は何ら改善効果を示さなかった。一方、卵巣摘除(OVX)を施した雌性ラット(腎動静脈虚血45分間)においては雄ラットと同様の腎機能及び組織障害がみられ、これらはABT-627投与により顕著に抑制された。なお、実験プロトコルのエンドポイント(IR後29時間)での腎組織中ETA及びETB受容体遺伝子発現量並びにET-1含量、さらに血中ET-1濃度に各群間での有意な雌雄差は認められなかった。これらのことをまとめると、雌性ラットの虚血性急性腎障害においては女性ホルモンの有無によって選択的ETA受容体拮抗薬の効果に明らかな差が認められ、本病態の雌雄差にET-1/ETA受容体システムが密接に関わることが示唆された。また、intactな雌性ラットに対するETA受容体拮抗薬投与が有効性を示さなかった理由の一つとして、内因性の女性ホルモンとETシステムをターゲットとした病態改善作用が同一のメカニズムを介している可能性が考えられた。
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