我々はこれまでに、虚血性急性腎障害に性差が存在すること、また本病態に対しては選択的エンドセリン(ET)A受容体拮抗薬が奏功すること、その一方で、雌性ラットの虚血性急性腎障害においては女性ホルモンの有無によって選択的ETA受容体拮抗薬の効果に明らかな差が生じることを認め、本病態の発症とその雌雄差発現にはET-1/ETA受容体システムが密接に関わる可能性を示唆してきた。これらのことを踏まえ、平成29年度は昨年と同様に虚血性急性腎障害における性差発現とETB受容体との関連性について引き続き検討を加えた。その結果、腎虚血再灌流処置後1日における腎機能は野生型及びETB受容体遺伝子欠損ラットの雄において顕著に低下したが、genotype間に有意な差はみられなかった。一方、野生型の雌は雄に比べて腎機能悪化の程度は弱く、統計学的には有意ではないが、性差を認めた。さらに、ETB受容体遺伝子欠損ラットの雌においては、雄と同程度の腎機能の低下がみられ、性差の消失を確認した。なお再灌流1週間後においては、野生型の雌雄共に1日後と比較して明らかな腎機能の回復を認めたが、ETB受容体遺伝子欠損ラットの雄においてのみ依然として腎機能の低下がみられた。また、ETB受容体遺伝子欠損ラットの生存率は雌雄共に野生型と比較して低値を示した。以上の結果から、虚血性急性腎障害の性差発現においてETB受容体が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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