研究課題/領域番号 |
15K08263
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
鈴木 健之 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (30262075)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん遺伝子 / レトロウイルス / 挿入変異 / 疾患モデルマウス / エピジェネティクス / がん分子標的 |
研究実績の概要 |
レトロウイルス感染発がんモデルマウスを用いて、腫瘍の発症および悪性進展過程に関連する遺伝子群の探索を進め、新しい候補としてヒストンのメチル化修飾に関与する酵素の遺伝子を同定してきた。 候補遺伝子のひとつJMJD5の生理機能やがん発症における役割を解明するために、Jmjd5欠損マウスを作製して解析した。Jmjd5-/-胚では、がん抑制遺伝子p53の主な下流標的遺伝子(p21、Noxa、Mdm2など)の発現が亢進するが、p53遺伝子の転写・翻訳レベルの発現誘導は観察されない。クロマチン免疫沈降実験から、標的遺伝子座へのp53タンパク質のリクルートが有意に上昇すること、免疫沈降実験から、p53タンパク質がJMJD5タンパク質と相互作用することが示された。すなわち、JMJD5はp53シグナルを負に制御する新しい「p53制御因子」として,細胞の増殖に関与することがわかった。もう一つの候補因子DOT1L酵素は、白血病発症に関与することで有名だが、固形がんにおける役割はあまり報告されていない。私達は、DOT1Lが乳がん、特にトリプルネガティブ型乳がんで、高発現していることを見いだした。また、DOT1Lの大量発現は、乳がん細胞株のスフィア形成能や細胞運動能を上昇させること、一方、DOT1Lのノックダウンは、それらを低下させることがわかった。DOT1L によって発現制御される標的遺伝子のうち、分岐鎖アミノ酸アミノ基転移酵素BCAT1は、乳がんでDOT1Lと同様の発現様式を示した。BCAT1の大量発現あるいはノックダウンによって、DOT1Lによるスフィア形成能や細胞運動能の変化を打ち消すことができることから、BCAT1がDOT1Lの下流で作用する重要なエフェクター分子であることが示唆された。さらに、DOT1L酵素活性阻害剤EPZ-5676やBCAT1阻害剤gabapentinが、乳がん細胞株の悪性形質に阻害的効果を示したことから、これらの阻害剤のがん治療への有用性をさらに検討する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞の浸潤、上皮・間葉転換(EMT)、薬剤耐性、低酸素応答などは、がんの悪性化や難治性の本態であり、これらを理解し制御するがんの治療法の開発は極めて重要である。挿入変異の標的として同定したヒストンのメチル化酵素と脱メチル化酵素について、乳がん、肺がん、大腸がんなどさまざまながん細胞株を用いて発現解析を行なった結果、次のような新しい知見が得られつつある。1)がん細胞の運動能・浸潤能に影響を与える2種類の酵素および、EMTに影響を与える3種類の酵素を同定した。2)肺がん細胞株の抗がん剤に対する薬剤耐性に関して、複数の酵素の発現が、耐性獲得と関係することを見いだした。3)がん細胞の低酸素刺激に応答して顕著に発現が変化するJMJD5酵素が、がんの悪性度やスフィア形成能に関与することを見いだした。このように、がんの悪性進展の様々なステップにおいて、ヒストンのメチル化修飾を介するエピジェネティック制御の異常が密接に関係することが明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
エピジェネティック制御は、様々な生物学的現象に重要であり、その破綻は、疾患の発症と密接に関係する。本課題は、がん細胞の浸潤、転移、EMT、薬剤耐性、低酸素応答など悪性進展の素過程にフォーカスし、ヒストンのメチル化制御の新しい役割を解析するものであり、独自の結果や未発表データが現在、複数得られている。また、ヒストンのメチル化制御と、microRNA、長鎖非コードRNA、DNA脱メチル化関連酵素との関係性を調べることで、エピジェネティック制御因子間での新しい相互作用の解明にも貢献できる。さらに、DNAのメチル化やヒストンのアセチル化を標的とする既存の抗がん剤に加えて、ヒストンのメチル化制御を標的とする次世代のがんエピジェネティック治療薬の開発に対しても、多くの有用な知見を提供できる。
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