研究課題
アルツハイマー病脳内で観察されるアミロイド斑は、アミロイド前駆体タンパクに由来するアミロイドβ蛋白の細胞外における重合沈着により形成される。重合沈着したアミロイドβ蛋白は神経毒性作用を示す。脳神経機能維持のために、通常脳内免疫細胞であるミクログリアにより脳アミロイド斑は貪食除去される。しかしながら、これらの作用の減弱がアルツハイマー病の進行にともない観察される。細胞外分子ヘパラン硫酸糖鎖が脳アミロイド斑と共局在し除去を妨げていることが一つの理由と考えられる。生理条件下では血管基底膜に存在するヘパラン硫酸糖鎖の多硫酸化ドメイン構造が、アルツハイマー病脳ではアミロイド斑に多量に蓄積することを申請者らは以前報告した。本研究は、ヘパラン硫酸糖鎖多硫酸化ドメイン分解酵素であるSulf2を脳内で血管内皮細胞もしくはミクログリアで発現するトランスジェニックマウスおよびアルツハイマー病モデルマウスを用いることにより、脳アミロイド斑で共局在する多硫酸化ドメインの蓄積の機序解明、およびその酵素的分解による脳アミロイド斑除去作用への効果を検証することを目的とする。昨年度作製に成功した血管内皮細胞で特異的にヒトSulf2を発現する脳アミロイド斑蓄積モデルマウスに対して、さらなる生化学解析および組織化学染色解析を行った。一方、申請者らはミクログリアで特異的にヒトSulf2を発現する脳アミロイド斑蓄積モデルマウスの作製にも成功したが、トランス遺伝子の発現量が個体ごとに安定しないことが判明し、現在、他のミクログリア特異的Creドライバーマウスと交配している。本研究は本年度概ね予定通り遂行されたが一部予想外の結果に対処する必要があった。
3: やや遅れている
本年度は申請内容に関してやや遅れた。昨年度作製した、血管内皮細胞でSulf2を過剰発現するアルツハイマー病モデルマウスの数を交配により増やし、12ヶ月齢までの各月齢における脳内アミロイド病変を解析することができた。血管内皮由来Sulf2により分解されるヘパラン硫酸多硫酸化ドメインの脳アミロイド斑蓄積への関わりをさらに詳細に解析している。一方、ミクログリアでSulf2を過剰発現するアルツハイマー病モデルマウスを申請者らは作製した。Creドライバーマウスのトランス遺伝子発現量の次世代への維持が安定的に行われない可能性が観られ、この問題を解決するため他のトランス遺伝子を発現する別のミクログリアCreドライバーマウスを入手し、交配を行った。
次年度も引き続き当該マウスの解析を実施する。本年度と同様に、対象のマウスの数を増やし脳内アミロイド斑の形成やアミロイドに反応して発現が変動する各種細胞のマーカー遺伝子、免疫刺激応答遺伝子に関して解析する。脳内におけるSulf2のヘパラン硫酸糖鎖多硫酸化ドメイン分解活性は抗多硫酸化ドメイン抗体による蛍光免疫染色法により評価する。トランス遺伝子由来のSulf2の脳内定量はモノクローナル抗体を用いたELISAにより測定する。アミロイド斑の蓄積は82E1抗体を用いた免疫染色法で解析し、脳内アミロイドβ蛋白の定量は特異的抗体を用いたELISAによる解析で評価する。アミロイド前駆体タンパクのプロセシングはそのN末端およびC末端特異的抗体を用いたウェスタンブロットにより検証する。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 備考 (1件)
Neural Regen. Res.
巻: 11 ページ: 408-409
10.4103/1673-5374.179043
Biochim. Biophys. Acta.
巻: 1858 ページ: 1339-1349
10.1016/j.bbamem.2016.03.021
Nagoya J. Med. Sci.
巻: 78 ページ: 293-301
Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 30391
10.1038/srep30391
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/biochem/