研究課題
心疾患は世界の死因一位であり、ヒト心筋細胞は創薬や再生医療において非常に需要が高いが、拍動する機能的な心筋細胞は分裂能が低いため初代培養による生産が難しく、工業的に大量生産可能な実用的細胞は現在、iPS細胞由来の心筋細胞のみである。しかし現時点のiPS-心筋細胞は非常に高価であり(心臓一個分の細胞で30億円/市販価格)、また安全性や安定性が問題となっている。一般に細胞分化培養には組み換え蛋白質や血清成分など、生体由来の高分子が大量に必要であり、これが細胞の高コスト化やウイルス等のコンタミリスク、ロット差が生じる原因となっている。本研究はこれらの生体高分子を全て、化学合成可能な低分子化合物に置き換えるために、京都大学化学研究所の約1万化合物のライブラリから、iPS細胞を心筋細胞に分化させる新規化合物KY02111、KY03-Iをハイスループットスクリーニングにより発見した(和光純薬社他から世界的に販売中)。そしてさらにEGFR阻害剤など幾つかの分化効果のある低分子を見出し、独自の新たなiPS-心筋誘導法を開発した。この心筋誘導法は蛋白質やペプチド等の生体高分子を全く含まず、低分子とアミノ酸のみの環境条件で行われており、細胞分化を人工物のみで誘導した世界唯一の手法である。これによりコスト効率が非常によく、ウイルス等のコンタミリスクがなく、またロット差の影響を受けず安定してiPS-心筋細胞を生産することが可能となった。本技術による心筋細胞は心筋純度が90%以上と高く、3次元浮遊培養系であるため大量培養に適しており、バイオリアクターを開発中である。また電気生理学的に比較的成熟したヒト心筋細胞の性質を持ち、さらにその性質を保ったまま、効率的に心筋を凍結保存する手法を開発している。これにより心筋細胞を自由に輸送することが可能になり、再生医療や創薬応用の実現が促進される。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで多能性幹細胞を含むあらゆる細胞分化の培養法は、培養液中に成長因子やサイトカイン、血清などの生体由来蛋白質の添加が必須であり、人工物のみで細胞分化をコントロールできた例はなかった。その意味で本技術は世界で初めて人工的に細胞分化をコントロールしていると言える。この技術は独自の化合物ライブラリを用いたハイスループットスクリーニング法によって可能となった。これにより細胞生産タンパク質に起因する不安定さ、ロット差の問題や、コストの問題、ウイルス等のコンタミリスクの問題を解決できる。また新たに開発した細胞凍結法は組織凍結の技術として新規性の高いものになっている。
iPS細胞由来心筋細胞をより工業的に大量生産するためのバイオリアクターの開発を進める。新規化合物KY03-I以外の心筋分化化合物との組み合わせ、培養ゲルの条件を検討する。心筋凍結法をより改良し、細胞生存率を上げる。より高度に成熟化した心筋組織化のための3次元培養系を構築する。
当該年度よりも次年度の消耗品支出予定が大きくなったため。
細胞培養液、プラスチック製品、試薬類、旅費に使用する。
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