研究課題
本研究では、介在板から発信される恒常的なAMPKシグナルおよび病態によるその変容を解明し、心筋細胞間接着を基点とする新しいAMPKのバイオロジーを明らかにすることを目標とする。2015年度には介在板におけるAMPKの基質の探索をおこない、CLIP170および新規膜タンパク質(AIPID)を基質として同定した。2016年度は15年度に同定したCLIP170のリン酸化の意義の検討をすすめた。CLIP-170についてはEGFPを付加した融合タンパクを心筋細胞で発現させ、心筋細胞における微小管の動きをリアルタイムに観察したところ、心筋細胞において長端側ではなく、介在板に方向性をもってすすむ微小管の動きを観察することができた。さらにAMPKの阻害薬であるCompound C処理により、微小管伸長速度の低下と微小管プラス端に集積するCLIP170のcomet長の有意な増加を認めた。CLIP-170のリン酸化部位に変異を加えた S311A mutantの発現により同様の変化が認められ、AMPKによるCLIP-170の311番目のセリン残基のリン酸化の重要性を証明した。またAMPKによるリン酸化の役割を生体で検討するために、CLIP-170のリン酸化部位に変異を加えた S311A をloxPではさんだコンストラクトを、タモキシフェン誘導下で心筋特異的に発現するトランスジェニックマウスを作成した。S311A TGマウスは、有意な線維化と心収縮力の低下を認めた。さらにドキソルビシン負荷心不全モデルを作成したところ、S311A TGマウスではコントロールに比べさらなる心機能の悪化を認めた。これは心臓において微小管のdynamic instabilityの制御が恒常性維持に必須であり、その破たんが心機能異常を引き起こし、病態生理学的にも重要であることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
(研究実績の概要)にあげたCLIP-170の機能解析に加え、新規に発見した介在板におけるAMPKの新規基質であるAIPIDに関しても進展があった。2015年度にはAMPKによるリン酸化部位を同定し、ウェスタンブロット、免疫染色が可能なリン酸化部位特異的な抗体の作成に成功した。まったく既報のない機能未知の分子であったため、2016年度には機能解析のため結合タンパクの同定をこころみたところ、分子Aを同定し、結合をin vitroで確認した。
心筋細胞における微小管輸送に対してAMPK活性の変化および局在を操作し検討を進める。またS311A TGマウスが心機能に有意な差をみとめており、今後心電図、ジャンクション分子の免疫組織染色および電子顕微鏡観察によりさらに詳細な解析を行う予定である。またCLIP170の恒常的活性化型mutantであるS311D TGをすでに作成しており、in vivoにおけるCLIP-170のリン酸化レベル調節の重要性について検討する。また2017年度には各細胞内分画におけるAMPK活性のバイオセンサーを心筋細胞に導入し、その活性化のトリガー因子を検索する予定である。
トランスジェニックマウスを使用した実験が予定通り進行し、予定していた予備実験がすくなくすみ、また試薬も安く購入できたため差額が生じた。
次年度は心筋培養系の実験を当初の予定より検討する条件数を増やし、より詳細な検討をくわえていく。また成果の発表のタイミングが次年度のほうが適しており、学会出張を計画している。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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