本研究では、介在板から発信される恒常的なAMPKシグナルおよび病態によるその変容を解明し、心筋細胞間接着を基点とする新しいAMPKのバイオロジーを明らかにすることを目標としている。 2017年度には本研究で見いだした、介在板におけるAMPKの基質であるCLIP170のIn vivoにおける微小管のdynamic instability制御の意義をすすめた。AMPKによるリン酸化を受けないCLIP S311A mutant心臓特異的強制発現TGマウスを用いて、抗がん剤として広く使われ副作用に心毒性を持つドキソルビシンの投与による病態モデルを作製した。ドキソルビシンを投与したCLIP S311A mutantマウスでは、Controlに比べてさらなる心機能の悪化がみられた。さらに、ドキソルビシンを投与したCLIP S311A mutantマウスでは、心機能の低下だけでなく、線維化を伴う組織変性も認め、微小管のdynamic instability制御障害が心不全発症機序の一因となる可能性を示した。 これまで示した心臓におけるAMPK活性は代謝系とは独立に高く維持されており、これまで知られているエネルギー枯渇状態での活性化とは異なる制御が想定された。心筋細胞は心臓自体の拍動というメカノストレスを常時受けていること、AMPKが局在する介在板は心臓でのメカノセンシングの場であることから、心臓でのAMPK活性がメカノストレスにより制御されているという仮説を立てた。そこで拍動阻害剤により拍動を抑制した新生仔ラット心筋細胞において、介在板でのAMPK活性および局在が心筋拍動によるメカノストレスによって制御されていることを見いだした。従来予想されていた心臓でのAMPK活性のまったく新しい調節機構の発見であり、今後の発展が期待できるものである。
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