研究課題
本研究では、「Wntシグナルが如何に外分泌腺上皮の分岐形態形成と機能的分化を協調的に制御するのか」を明らかにすることを目的とし、平成27年度は以下の研究成果を得た。(i)Wnt/β-カテニン経路の唾液腺上皮における活性化パターンの解析:Wnt/β-カテニン経路の唾液腺上皮における時空間的活性化パターンをWntレポーターマウス(Axin2-LacZ)または、唾液腺局所の細胞を用いたリアルタイムPCRで検討した。Wntシグナルの活性は発生初期にはEnd bud (EB)周囲の間質と上皮導管部で活性化しており、またEB上皮でも弱い活性化を認めた。発生後期では導管部上皮を除く、周囲間質とEBにおけるWntシグナル活性化が時間依存的に減弱した。(ii)Wnt/β-カテニン経路が導管形成と導管部上皮前駆細胞に与える影響の解析:上皮単独培養系において、Wnt/β-カテニン経路を活性化させるリガンドであるWnt3aやCHIR99021による処理は、導管上皮の長さおよび太さを増加させた。さらに、導管部上皮に局在する前駆細胞マーカーであるKrt5の発現はWntシグナルの活性化によって増加した。一方で、Wntシグナルの活性化によって導管形成が促進している状況下においても、EdUの取り込みを指標とした細胞増殖はコントロール群と比較して変化していなかった。(iii)β-カテニン非依存性Wntシグナルの唾液腺形態形成における役割の解析:Wnt/β-カテニン経路を活性化させるWnt3aを唾液腺上皮に過剰発現させると導管形成の活性化を認めたが、β-カテニン非依存性Wntシグナルを活性化させる代表的リガンドであるWnt5aは唾液腺上皮の形態に影響を与えなかった。さらに、Wnt5aのノックアウト(KO)マウスから摘出した胎生13日目の唾液腺を器官培養したところ、野生型と比較して顕著な形態学的表現型を認めなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度の研究計画「Wntシグナルが唾液腺の分岐形態形成を制御する機構の解析」については、研究実績概要に記載したとおり、おおむね終了している。さらに、平成28年度以降の研究計画である「Wntシグナルが唾液腺の機能的分化を制御する機構の解析」についても既に解析を開始しており、以下のような結果を得ているため当初の計画以上に進展していると判断した。Wntシグナルが唾液腺EB上皮の腺房への分化を抑制すること、さらにEBに局在するSox10陽性前駆細胞とKrt14陽性前駆細胞の数を増加させ、増殖を促進することが明らかになった。発生初期におけるWnt/β-カテニン経路の活性化はEB上皮の腺房への機能的分化を抑制し、未分化な状態に保つ役割があると考えられた。
今後はWntシグナルが唾液腺EB上皮の腺房への分化を負に制御する分子機構を明らかにする。そのために腺房分化を正に制御しているシグナルを明らかにしたい。EGFやFGF、SCFといった他の液性因子を中心に腺房分化における役割を検討する。また、Wntシグナルによる導管形成の促進において導管部上皮の細胞増殖に変化が認められなかったことから、導管形成に寄与している細胞の由来をLineage tracing法を用いて検討する。それらの結果を踏まえて、「Wntシグナルが如何に外分泌腺上皮の分岐形態形成と機能的分化の両プロセスを協調的に制御するのか」について明らかにする。
平成27年度の研究計画を遂行するのに要したマウスの購入や試薬・器具の購入が当初の予定よりも少なくなったため。
平成28年度(次年度)には、遺伝子改変マウスの解析、網羅的な遺伝子発現解析(受託)等を予定してる。表現型の分子メカニズムを解析するための、生化学・分子生物学的解析に試薬・器具等の物品を購入する。「
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