研究課題/領域番号 |
15K08272
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 真司 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20572324)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 唾液腺 / Wntシグナル / 腺房 / KIT |
研究実績の概要 |
平成28年度は以下の研究成果を得た。 (i)Wnt/β-カテニン経路が腺房細胞分化に与える影響の解析:Wnt/β-カテニン経路をCHIR99021(GSK3阻害剤)で活性化すると前期腺房分化マーカーAQP5に加え、後期腺房分化マーカーPSPの発現が強く抑制された。また、IWP2(Porcupine阻害剤)処理によるWntシグナル(β-カテニン経路およびβ-カテニン非依存性経路)の抑制によって認められる腺房分化促進の表現型は、CHIR99021処理によってキャンセルされたことから、Wntシグナル、特にWnt/β-カテニン経路が唾液腺の腺房分化を負に制御することが明らかになった。 (ii)他の液性因子とWnt/β-カテニン経路の相互作用が腺房細胞分化に与える影響の解析:Wnt/β-カテニン経路の活性化によって唾液腺上皮においてAKTのリン酸化が抑制されることが明らかになった。EGFR、FGFR、KITといった増殖因子受容体阻害剤で唾液腺を処理したところ、AKTのリン酸化はFGF-FGFRまたはSCF-KITシグナルに依存していた。CHIR99021処理はFGFシグナルの標的遺伝子であるEtv4/5、Ccnd1等の発現に影響しなかったことから、Wnt/β-カテニン経路はSCF-KITシグナルを介してAKTの活性化に関与する可能性が示唆された。Wnt/β-カテニン経路がSCF-KITシグナルに与える影響を検討したところ、CHIR99021処理によってKITの発現がmRNAレベルで抑制された。そこで、KITの遺伝子発現制御に関わる転写因子群の発現を検討したところ、CHIR99021処理によってMyb(転写促進・抑制の両作用あり)の発現が増加した。そこでshRNAを用いて唾液腺上皮でMybを発現抑制したところ、KITの発現が増加するとともに、腺房分化が促進することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の研究計画「Wntシグナルが唾液腺の機能的分化を制御する機構の解析」については、研究実績概要に記載したとおり、おおむね終了している。さらに、平成28年度以降の研究計画である「唾液腺上皮の機能的な分化が分岐形態形成に与える影響の解析」についても既に解析を開始しており、以下のような結果を得ているため当初の計画以上に進展していると判断した。 唾液腺発生の前期において、Wntシグナルの活性化は導管部ではなく、end budにおける細胞増殖を促進し、Sox10+またはKRT14+の前駆細胞数を増加させた。そこで、end bud細胞を特異的に蛍光標識して追跡したところ、end bud由来の細胞が導管を形成する様子が観察され、さらにWntシグナルの活性化はend bud由来の導管形成を強く促進することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は主として器官培養等のin vitro実験モデルで明らかにしてきたWntシグナルによる唾液腺上皮の分岐形態形成と機能的分化の協調的制御がin vivoのマウス生体内において認められるか否かについて、安定型β-カテニン発現マウス;Ctnnb1(Ex3)fl/flを用いて明らかにする。さらに、類似の外分泌腺である涙腺においても、同様のWntシグナルによる分岐形態形成と機能的分化の制御機構が存在するかについても検討する。すでに胎生期涙腺の原基培養系と上皮単独培養系は確立済みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究計画に要するマウスの購入費、試薬・器具の購入費等が当初の予定よりも少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は遺伝子改変マウスの表現型解析に関わる生化学、分子生物学関連試薬・器具等の物品を購入するとともに、胎児涙腺を採取するための妊娠マウス購入、器官培養等に関わる試薬を購入する。
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