本研究では、「Wntシグナルが如何に外分泌腺上皮の分岐形態形成と機能的分化を協調的に制御するのか」を明らかにすることを目的とし、研究機関全体を通じて以下の研究成果を得た。 (1)Wntシグナルを恒常的に活性化したマウス(安定型β-カテニン発現マウス)の唾液腺において、器官の大きさに異常は認めないものの、胎生17日目における腺房分化が著しく抑制されるとともに導管構造の形成が亢進していた。 (2)胎生13日目の唾液腺原基を摘出して器官培養すると、非極性化上皮からなるend budは培養4日目から6日目にかけて急速に極性化し、多房性の腺房構造を形成した。Wntシグナルを恒常的に活性化させると、培養6日における腺房構造の形成が強く抑制され、end budは未分化な非極性化状態に維持されるとともに、導管の形成が促進した。一方、Wntシグナルを阻害すると、end budはコントロールと比較して早期に極性化して腺房構造を形成するとともに、導管の形成が抑制された。 (3)唾液腺発生の前期において、Wntシグナルの活性化は導管部ではなく、end budにおける細胞増殖を促進し、Sox10+またはKRT14+の前駆細胞数を増加させた。そこで、end bud細胞を特異的に蛍光標識して追跡したところ、end bud由来の細胞が導管を形成する様子が観察され、さらにWntシグナルの活性化はend bud由来の導管形成を強く促進することが明らかになった。また、Wntシグナル依存的に導管部で増加する未分化な細胞がAQP3を特異的に発現することを見出し、FACSに使用可能なAQP3に対するモノクローナル抗体の作製に成功した。 (4)発生後期ではWntシグナル活性の減弱にともなって、end budにおいてSCF受容体であるKITの発現が局所的に上昇し、AKTの活性化を介して腺房分化が誘導された。
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