研究課題/領域番号 |
15K08273
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大垣 隆一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20467525)
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研究分担者 |
中込 咲綾 大阪大学, 21世紀懐徳堂, 特任研究員 (60423894)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞内シグナル伝達 / アミノ酸 / 受容体 |
研究実績の概要 |
細胞膜ロイシン受容体の活性を示す培養細胞株と、細胞内ロイシン受容体の活性を示す培養細胞株のそれぞれから、密度勾配遠心法によって細胞膜画分を濃縮する方法を最適化した。予備的に行った非標識の定性プロテオミクスにより前者においてのみ同定された137種類の膜貫通タンパク質のうち、37種類については機能未知であった。アミノ酸配列や予想されるドメイン構造などから特に興味深いと考えた12種類の膜貫通タンパク質については、細胞膜ロイシン受容体の活性を示す培養細胞株においてRNAiによる遺伝子ノックダウンをおこない、ロイシン添加時のmTORC1活性への影響を検討した。 また近年、海外の複数の研究グループによって幾つかのアミノ酸センサーの候補分子が単離が報告されたため、これらの因子についても遺伝子ノックダウンを実施した。しかしながら、我々が使用している培養細胞株においては、これらのアミノ酸センサー分子のノックダウンをおこなってもアミノ酸-mTORC1シグナル対する影響が認められなかった。従って、当該の細胞では既知のアミノ酸センサー分子とは異なる機構がアミノ酸、特にロイシンの認識に関与しているものと考えられる。 さらに、これまでアミノ酸シグナルによるmTORC1の活性化を解析する際には、慣例的に事前に細胞を血清・アミノ酸飢餓条件下において細胞内のリン酸化シグナルを全般的に低下させた後に複数種類のアミノ酸の混合液のみを添加してその応答を観察してきた。この方法では、血清飢餓の影響やロイシン以外のアミノ酸の影響を排除することが困難であったため、飢餓と刺激の条件検討を実施した。その結果、血清や他のアミノ酸の有無を変化させることなく、ロイシンの有無のみでmTORC1の活性化を検出できる条件を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた比較定量プロテオミクスにはまだ着手できていないが、予備的な検討から見出した候補因子群の一部については、H28年度に実施する予定であった遺伝子ノックダウンを前倒しして実施し、その機能的意義の検討を進めることができた。 また近年、海外の複数の研究グループによって幾つかのアミノ酸センサーの候補分子が単離が報告された。これに伴い、実験計画書には含まれていない項目ではあったが、これらの分子についても遺伝子ノックダウンによる検討を実施した。結果的に、我々が解析に用いている細胞では、これらの因子がロイシンのシグナル受容に関与していることを支持するデータは得られなかった。これにより、引き続き細胞膜型ロイン受容体の探索を継続することの意義が確認できた。 加えて、実験条件の最適化もおこなうことができた。従来の方法では、血清飢餓の影響やロイシン以外のアミノ酸の影響を排除することが困難であったが、新しい方法ではロイシンの有無のみでmTORC1の活性を捉えることが可能になった。 以上のように、当初予定していた解析を実施できなかった面もあるが、一部の解析は前倒しするかたちで実施している。また、研究分野内の動向によって当初予定していなかった解析なども実施せざるを得なくなった経緯がある。従って、研究計画はおおむね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、細胞膜濃縮画分を持ちいた比較定量プロテオミクスにより、細胞膜ロイシン受容体の候補分子の絞り込みをより高い精度で実施する予定である。さらに、特異的リガンド化合物を基本構造とした光親和性標識分子プローブを合成し、ケミカルバイオロジーの手法からも分子同定へのアプローチをおこなう予定である。 上記の2通りのアプローチにより絞り込まれた候補分子については、遺伝子ノックダウンによってロイシン―mTORC1シグナル系が影響を受けるかどうかを検討する。また、有望な候補分子については、生化学的な結合アッセイを実施してロイシン結合能を実証する。加えて、ロイシン結合能を損なわせた変異体を作成して、受容体のシグナル伝達における分子機能に対する、ロイシン結合の機能的意義を確認したいと考えている。細胞膜型ロイシン受容体としての機能実証が完了した後には、リン酸化プロテオミクスにより受容体の下流に広がるシグナル経路の網羅的解明に取り組みたいと考えている。同定した細胞膜ロイシン受容体とのアミノ酸配列相同性などの情報から、残された細胞内ロイシンセンサー分子の同定に繋がることも期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画をしていた比較定量プロテオミクスの実施に至らなかったため、また光親和性分子プローブの合成をおこなわなかったため、購入を予定していた関連試薬類の一部を購入するる必要が生じなかった。計画を一部変更しておこなった実験もあったため、それに関連した試薬類の購入等に充てたが、使い切るには至らず差額分が次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
比較定量プロテオミクス、また光親和性分子プローブの合成に関連する試薬類を購入する予定である。また、候補分子の遺伝子ノックダウンに使用するsiRNAの購入費用が比較的高額となる見込みのためこれに充てる。
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