研究課題/領域番号 |
15K08276
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
遠藤 光晴 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90436444)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | Ror2 / アストロサイト / 形態形成 / 増殖 / 移動 / 分化 |
研究実績の概要 |
アストロサイトは、脳内で多数の分岐した突起を周囲に広げた特徴的な形態を示し、これらの突起を介して神経細胞や血管と接触することで神経伝達の制御や血液脳関門の形成等に関わる。アストロサイトは発生過程においてグリア前駆細胞から分化することで産生され、この分化過程において突起伸長が起こる。しかしながら、アストロサイトの特徴的な形態が生み出されるしくみは未だ不明な点が多い。本年度は、アストロサイトで緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する遺伝子改変マウスを用いることで、発生過程の大脳皮質におけるアストロサイトの形態・増殖・移動について観察を行った。その結果、生後1~7日目では単純な形態を示し、増殖が盛んに起こるとともに活発に移動する様子が観察された。一方、生後7日目以降になると増殖能と移動能が低下し、複数の突起を伸長させ複雑な形態に変化することが示された。さらに、FGF2存在下で培養したグリア前駆細胞をBMP2で刺激してアストロサイトへと分化誘導した場合にも同様の形態・増殖能・移動能の変化が観察されることが示された。これらの結果は、アストロサイトの分化制御機構が形態・増殖能・移動能の制御と結びついていることを示している。我々はこれまでに受容体型チロシンキナーゼRor2が発生過程の大脳皮質グリア前駆細胞に発現しており、分化後のアストロサイトでは発現低下することを明らかにしている。実際、Ror2の発現はFGF2存在下で培養したグリア前駆細胞で高く、BMP2で刺激すると発現低下することが示された。さらに、siRNAを用いてグリア前駆細胞におけるRor2の発現を抑制すると増殖能と移動能がともに低下することが示された。今後、アストロサイトの分化・形態・増殖・移動の各制御機構における関連の有無を明らかにすることが重要であり、Ror2の機能に着目して解析を行うことで、その解明が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、発生過程におけるアストロサイトの形態変化について、マウス個体レベルでの解析と培養細胞を用いた解析を行い、アストロサイトの分化制御機構が形態・増殖・移動の制御と結びついていることを示すことができた。これらの制御機構が相互に関わっているか否かを明らかにすることが重要であるが、受容体型チロシンキナーゼRor2がその解明の糸口になることも示すことができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度の解析結果より、Ror2は未分化なアストロサイトで比較的高発現しており、分化誘導に伴い発現低下することが示された。そこで、Ror2の発現がアストロサイトの形態制御あるいは分化制御に関与するか否かについて明らかにする。関与が認められた場合には、さらにRor2によって制御される増殖能および移動能が形態制御あるいは分化制御に関与しているか否かについて明らかにする。これらの解析は主に培養グリア前駆細胞を用いて行うが、アストロサイトの発生過程におけるRor2の役割を明らかにするために、発生過程の脳内におけるアストロサイトでRor2を発現抑制または構成的に発現させ、その影響を解析する。また、アストロサイトにおけるRor2の発現制御機構について、エピゲノム制御による発現制御も想定して解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の解析から、発生過程のアストロサイトでRor2が重要な役割を担うことが示唆されたため、当初計画どおりアストロサイト特異的Ror2ノックアウトマウスを作製する必要性が生じた。我々はすでにアストロサイト特異的遺伝子制御下でCreリコンビナーゼを発現するマウス(GFAP-Creマウス)を保有しており、このマウスを利用してアストロサイト特異的Ror2ノックアウトマウスを作製し解析することも視野に入れていたが、発現解析の結果、Ror2の主な発現時期はGFAPの発現開始時期に先行することが明らかになったため、GFAPよりも早期からアストロサイトで発現する遺伝子のプロモーター制御下でCreリコンビナーゼを発現するマウスを導入する必要があるとの結論に達した。これに伴い、平成27年度に開始する予定であった実験の一部を平成28年度に行うことにしたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金については、当初の計画どおりに使用するとともに、次年度使用額については、本研究計画の遂行に必要となるアストロサイト特異的Ror2ノックアウトマウスの作製経費として使用する。
|