研究実績の概要 |
ヒストンH2AバリアントであるH2AXは染色体安定性維持に必須であり、H2AXノックアウトマウスは放射線感受性、増殖遅延、不妊、染色体異常を引き起こす。H2AXはDNA二重鎖切断が生じるとATMによってS139がリン酸化され、DNA損傷応答に関わる因子を損傷部位に効率よくリクルートすることに寄与しているが、それ以外の役割については不明である。本研究の目的は、ヒストンバリアントH2AXの染色体分配、DNA損傷応答、遺伝子発現における機能解析を通して染色体安定性維持機構を明らかにし、がん発症および生殖細胞の分裂異常に伴う疾患の解明と治療法に役立てることである。 申請者は、コンディショナルにH2AXを発現抑制できるHeLaおよびヒト網膜色素上皮細胞RPEを作製し、①H2AXがこれまで関連性が示されていたγH2AXとは無関係に細胞増殖に必須である、②H2AX発現抑制細胞では異常な染色体分配が起き、分裂期を経て細胞は死ぬことを見出した。H2AXのC末には、様々な修飾を受ける部位が存在する。分裂期にリン酸化が上昇するタンパク質のデータベースを用いて検索したところ、H2AX-S121のリン酸化が分裂期で増加することが分かった。そこでH2AX-S121リン酸化抗体を作製し局在を調べたところ、分裂期前期から中期にかけてセントロメアに強く局在し、後期に消失することが分かった。またin vivo, in vitroにおいてAurora BがS121をリン酸化することが分かった。さらに詳細な解析を行った結果、H2AX-pS121は染色体分配においてAuroraBの活性化に重要な役割を持つことが示唆された。これらの結果から、AuroraBの新たなターゲットであるH2AX-pS121は分裂期において重要なエピジェネティック修飾であると考えられる。
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