研究課題
本研究の目的は、ヒストンバリアントH2AXの染色体分配、DNA損傷応答、遺伝子発現における機能解析を通して染色体安定性維持機構を明らかにし、がん発症および生殖細胞の分裂異常に伴う疾患の解明と治療法に役立てることである。これまで申請者は癌抑制因子Chk1(Checkpoint kinase 1)によるヒストンH3-T11のリン酸化がDNA損傷応答に重要であることを報告した。さらなる解析によりChk1の新規基質として同定したヒストンバリアントH2AXが、AuroraBの活性化を通して正常な染色体分配に必須である結果を得た。今年度の研究実績は、以下の通りである。1. mitotic spreadによる詳細な解析から、H2AXはH2A-T120のリン酸化に必要ないが、H3-T3のリン酸化に必要であることがわかった。G2/M期特異的なH3-S10のリン酸化には影響がないことから、この結果は単に分裂期の細胞が減少したことによる、二次的な結果ではない。2. H3-T3をリン酸化するHaspinのクロマチンへの局在について調べたところ、H2AX発現抑制細胞ではAuroraB発現抑制細胞と同程度にクロマチン上のHaspinのリン酸化量が減少することがわかった。3. mitotic spreadによりH2AX発現抑制細胞ではAuroraBの活性化および局在化が減少していることが分かった。4. AuroraBの下流因子の活性化状態を検討するためにCENPAのリン酸化について調べると、H2AX発現抑制細胞ではCENPAのリン酸化が減少していた。以上のことから、H2AX がAuroraBの活性化、局在化に重要であることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
上記研究項目(1)から(3)について計画通り順調に進展した。さらに平成29年度に計画していた、ヒストン修飾とDNA損傷応答についても一部結果が得られた。
新環境のもと本研究を遅延させることなく遂行するために、必要な備品、人件費を中心に計画的に使用する。蛍光イメージングや網羅的なゲノム解析については、研究協力者の助言を仰ぎながら進めていく予定である。
他研究費で、本研究プロジェクトの計画の一部を推進することができたため、次年度使用額が生じた。
次年度は新しく研究環境を整えることが必要となり、本研究課題を進める上で必要な物品を購入する予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)
Cell Cycle
巻: 15 ページ: 3321
10.1080/15384101.2016.1224758
Scientific Report
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