研究課題/領域番号 |
15K08282
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
鳥羽 栞 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (40419891)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 微小管結合タンパク質 / シヌクレイン / 微小管 / 細胞内輸送 / 超解像顕微鏡法 / パーキンソン病 |
研究実績の概要 |
シヌクレインタンパク質はパーキンソン病やレビー小体型認知症の原因となっていると考えられる微小管結合タンパク質である。 本年度の研究計画は、in vivoつまり神経細胞内でのシヌクレインと微小管の関係をラット坐骨神経超薄切片電子顕微鏡解析や免疫電子顕微鏡解析を行うことであった。 その結果、通常13本とされている微小管のプロトフィラメントに関して、ホニュウ類では初めて13本以外の本数を持つものを観察できた。さらにシヌクレインを用いた免疫電子顕微鏡観察において、シヌクレイン標識金コロイドはプロトフィラメントの本数が14本のものに多いことがわかった。これはin vitroのcryo電子顕微鏡観察の結果を支持するもので、神経軸策内輸送においてシヌクレインが細胞骨格性微小管と輸送性微小管をどのように区別しているのかという課題に対して、プロトフィラメントの本数で識別しているというモデルを提案できる結果となった。 また、同様にin vivoの蛍光顕微鏡観察において、これまで行ってきた共焦点レーザー顕微鏡観察ではチューブリンの蛍光がぼやけた輝点としてしか観察ができず、チューブリンの凝集体なのか微小管なのか判別がつかなった。今回、近年急速に発展してきた超解像光学顕微鏡法のうちPALM法(Photoactivated localization microscopy)を用いて、シヌクレイン、ダイニン、NudCタンパク質と共局在しているチューブリンの蛍光が長さ平均1 micro m, 幅およそ50 nmの構造をしており、明確に短い微小管であると確認できた。 以上の結果から、in vivoにおいても、神経軸策内輸送に重要な役割を果たすと考えられるシヌクレインが介在する輸送性微小管システムについての知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究課題はin vivoつまり動物の神経軸策内でのシヌクレインと微小管の動態解明であった。まず、ラット神経軸策超薄切片試料の電子顕微鏡観察において輸送性微小管となっていると考えられる13本以外のプロトフィラメントを持つ微小管を観察できた。これはホニュウ類では初めての報告となる。また、免疫電子顕微鏡観察においても、ラット神経軸策内の微小管を取り囲む、シヌクレイン標識金コロイドを明確に観察できた。さらに、超解像光学顕微鏡法を用いて、電子顕微鏡において切片の断面として観察されたシヌクレイン結合微小管が長さ平均1 micro mほどの輸送に適した短い微小管として細胞骨格性微小管に付随していることも確認できた。前年度までのin vitroの結果に基づいたin vivoの知見を多く得ることができ、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、前年度までに得られたin vitroでの結果を元に、in vivoにおいても神経軸策内輸送におけるシヌクレインタンパク質の新たな機能があきらかになりつつある。シヌクレインはパーキンソン病やレビー小体型認知症の原因因子であると考えられるタンパク質であるが、生体内での機能は不明であり、当然疾患の発生に対する機構も明らかではない。パーキンソン病やレビー小体型認知症は老化に伴いシヌクレインが高度にリン酸化されることが発生に関与していると考えれられている。このことを踏まえて、現在は若年ラットの坐骨神経のみを用いているが、成熟や老化による違いがあるか、また、はるかに神経軸策が長い大型の動物の場合はどうかなど、実験動物の週齢や種類を変更し、年齢や大型化に影響されるシヌクレインと輸送性微小管の特徴なども明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
電子顕微鏡用グリッド20万円とチューブリンタンパク質との相互作用を調べるプラズモン共鳴用センサーチップ20万円を計上していたが、使用研究室より余剰グリッドの譲渡を受け、新規購入グリッドが不要となり、電子顕微鏡関係の費用がほとんどかからなかった。また、プラズモン共鳴さんサーチップについては同様に利用研究室より余剰品の譲渡を受け、条件検討用の予備実験も含めて計測が順調に進展したこともあり新規に購入する必要がなくなった。あらに、画像解析の人件費を計上していたがプログラムのインターフェースの改良により高速化が進み、研究代表者のみで十分な解析が実施でき、人件費が不要になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は生体試料を使った実験を多く実施する計画に変更し、実験動物の購入や維持費に多くの経費を使用する。論文投稿のための英文校正を文法修正のみではなく論理構成も確認する校正を行い追加費用に研究費を使用する。研究最終年度のため生物物理学会他所属学会で広く成果を公表するための旅費に使用する。
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