研究課題/領域番号 |
15K08285
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
大根田 絹子 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (50323291)
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研究分担者 |
石嶋 康史 高崎健康福祉大学, 薬学部, 講師 (10433640)
大森 慎也 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助手 (10509194)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マスト細胞 / 転写因子 / 遺伝子発現制御 / トリプターゼ |
研究実績の概要 |
マスト細胞に特異的なトリプターゼをコードする遺伝子群は、染色体上にクラスターを形成している。マウスでは、mMCP-6・mMCP-7をコードするTpsb2・Tpsab1などのトリプターゼ遺伝子群はChr17A3.3に存在している。研究代表者らは、転写因子Gata1またはGata2を欠失させたマウス骨髄由来マスト細胞(BMMCs)を用いて、トリプターゼ遺伝子群の発現がGATA因子に強く依存していることを報告した(Ohneda et al., Mol Cell Biol., 2014, Omori et al., Blood, 2015)。また、Chr17A3.3にGATA結合配列が集積する約500bpの領域(RegionA)が存在し、この領域にGATA1が結合している。これらの結果を踏まえて、本研究では、GATA因子がどのような分子機序でトリプターゼ遺伝子の発現を制御しているのか解明することを目的とする。初年度は、CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集技術を用いてRegionAを欠失させ、その機能的貢献を検証することを試みた。まず、RegionA の近傍に標的配列を設定し、gRNAをpX330vecterに挿入した。また、切断後に相同組換えによって薬剤耐性遺伝子を導入するため、Targeting vectorを作製した。これらの実験材料は、当初BMMCsに導入する予定であったが、BMMCsに高効率・高生存率で遺伝子導入することは技術的に非常に難しいことが判明し、現在、他の方法を模索中である。本研究では、GATA因子によるトリプターゼ遺伝子の統括的発現制御機構の生物学的意義を明らかにすることを第二の目的としている。今年度は、研究代表者らが維持しているGata1、Gata2の条件付きノックアウトマウスを用いて個体レベルでマスト細胞の機能解析を行うため、マスト細胞特異的にCreERを発現するトランスジェニックマウスの作製や、Gata1/Gata2ヘテロ欠失マウスの交配を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画どおり、GATA因子によるトリプターゼ遺伝子の統括的発現制御機構を解明するため、CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集によってマウス骨髄由来マスト細胞(BMMCs)においてRegionAの機能的貢献を検証することを試みた。pX330vecterにgRNAを挿入し、標的配列を含むレポータープラスミドDNAと共に293T細胞に導入した。このレポーターアッセイで、標的配列がCas9により効率よく切断されることを確認した。また、切断後に相同組換えによって薬剤耐性遺伝子を導入するため、Targeting vectorを作製した。これらの実験材料は順調に作製できたが、その後の実験で、BMMCsに高効率・高生存率で遺伝子導入することが技術的に非常に難しいことが明らかとなった。現在はマスト細胞の培養細胞株を用いるなど、他の方法を模索中である。汎用されている培養マスト細胞株には、トリプターゼ遺伝子が発現していないことが多いため、現在、BMMCsと同等にトリプターゼを発現するマスト細胞株を探索している。本研究の第二の目的は、GATA因子によるトリプターゼ遺伝子の統括的発現制御機構の生物学的意義を明らかにすることである。今年度は、Gata1、Gata2の条件付きノックアウトマウスを用いて個体レベルの解析を行うため、マスト細胞特異的に発現するMcp5を用いたCreERトランスジェニック(TG)マウスの作製を試みた。大腸菌人工染色体(BAC)を用いてMcp5遺伝子の制御下にCreERを発現する構築を作製し、設計どおりに組み換えが起こっていることを確認した。マイクロインジェクション用に精製した後、複数回インジェクションを行ったが、現在までTGマウスは得られていない。Gata1/Gata2ヘテロ欠失マウスについては、順調に交配が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的な研究方針に変更の必要はないが、いくつかの実験が技術的に難しいことが明らかとなったため、実験計画を再考している。CRISPR-Cas9法によるゲノム編集法については、pX330vecterやTargeting vectorなど、今回作製した実験材料をマスト細胞の培養細胞株を用いた実験に用いることができるかどうか検討を進めたい。また、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMCs)や腹腔マスト細胞(PMCs)を用いたChIP解析は、研究代表者らの研究室では既に技術的に確立されている。以前は、トリプターゼ遺伝子座へのGATA因子の結合に注目して解析を行ったが、この遺伝子座のクロマチン活性化の制御におけるGATA因子の役割等について、更に解析を進めていきたい。Gata1/Gata2ヘテロ欠失マウスについては、交配を進めて、まずBMMCs の表現型を解析したい。また、このマウスは、個体レベルでのマスト細胞の機能解析にも用いる予定であるため、他の血球系列に異常がないかどうか、事前に検討したい。Mcp5 CreERTGマウスについては、現在のところTGマウスが得られていない原因がはっきりしていない。様々な可能性を考えてトラブルシューティングを行い、TGマウスが得られるように進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述のように、実験を進めるうえで技術的な困難が生じ、予定通りに実験を進められなかった。CRISPR-Cas9法によるゲノム編集法では、実験材料は作製できたが、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMCs)に高効率・高生存率で遺伝子導入する方法を見いだせなかったため、その後に予定していた解析を実施できなかった。また、マスト細胞特異的条件付きCreマウス(Mcp5 CreERTGマウス)の作製にあたって、マイクロインジェクションを行った結果、ルーチンのプロトコールに従って実施したにもかかわらず、TGマウスが得られなかった。これらの理由により、消耗品として計上していた予算の一部を次年度に繰り越さざるを得なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
CRISPR-Cas9法によるゲノム編集法については、今年度作製した実験材料を、マスト細胞の培養細胞株を用いた実験に用いることができるかどうか検討を進めたい。前述したように、汎用されている培養マスト細胞株には、トリプターゼ遺伝子が発現していないことが多い。そのため、現在複数のマスト細胞培養細胞株について、GATA因子やトリプターゼの発現を検討している。適切な培養マスト細胞株が見つからない場合には、ゲノム編集法または一般的なジーンターゲティングにより、RegionA欠失マウスを作製することを検討する。Mcp5 CreERTGマウスについては、TGマウスが得られない原因が明らかではないので、情報を集めて、外部受託を含めた種々の対策を講じる。マウス骨髄由来マスト細胞(BMMCs)・腹腔マスト細胞(PMCs)を用いたトリプターゼ遺伝子座のChIP解析ならびにGata1/Gata2ヘテロ欠失マウスについては、予定通り実験を進めたい。
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