研究課題
メンデル遺伝病の基本として、X連鎖遺伝は男性は重症、女性は軽症あるいは保因者となることが想定される。女性重症例のX連鎖疾患は通常、男性の胎生致死によるもの、あるいは女性のX染色体不活性化の偏りで説明される。しかし、X連鎖の頭蓋・前額・鼻症候群(CFNS)では、女性重症、男性軽症であることが知られ、その原因遺伝子であるEFNB1の機能との関連が議論されてきた。現状の仮説として、X染色体のランダムな不活化により、正常EFNB1発現細胞と、変異EFNB1発現細胞の混在した状態が、正常発生の撹乱を生じていることが想定されている。本研究では、このモザイク状態で起こる現象の分子メカニズムを、in vitroで再現する系を確立することを目指した。培養細胞株にリガンドであるEFNB1を、またレセプターであるEPHB2をそれぞれ単独に発現する細胞株を樹立し、野生型および変異型リガンド発現細胞を、レセプター発現細胞と混在した状態でどのような細胞の挙動を示すかを実験した。本研究機関で見つかったCFNS症例2例の変異を導入したタンパクのin vitro結合実験にて、それぞれが野生型よりも強い結合と弱い結合の変化を示したことから、これらの変異リガンドを膜上に発現させたヒト培養細胞株を構築し、レセプター発現細胞との共存環境にてレセプター細胞の移動速度を計測した。条件検討などを繰り返すことで安定した結果を得られ、その結果、変異型はレセプターとの結合力の強弱に関わらず、野生型細胞との共存下ではそのmigrationが遅くなることが確認された。この速度は変異型単独の条件よりもさらに遅くなることから、Xのランダム不活化による野生型および変異型アレル発現細胞の混在状態が、細胞のmigrationを変化させ、正常発生を妨げ、男性よりも女性で重症化させる原因であることが確認された。
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