研究課題
量的形質座位(QTL)解析により肥満症を引き起こす原因遺伝子として3種類の遺伝子(リポプロテインリパーゼ、ラクタマーゼβおよびプロテインホスファターゼ PPM1L)が報告された。これらの肥満関連遺伝子のうち、PPM1Lは、ストレス応答シグナル伝達経路の制御因子として我々が初めて同定したものであり、我々は、本タンパク質の個体における機能を解明する目的でPPM1L遺伝子欠損マウス(PPM1L-KOマウス)を作製していた。本KOマウスに高脂肪食を摂取させたところ、WTと比較し、高脂肪食誘導性の肥満に対する抵抗性が観察された。PM1L-KOマウスでは、個体当たりの摂食量が減少しており、肥満抵抗性の要因の一つとして、神経系の異常の関与が示唆された。PPM1Lエクソンに組み込まれたLacZ遺伝子の発現を指標としてマウス胚(9.5~11.5日胚)での発現を検討したところ、中枢神経系(終脳、中脳、後脳、脊髄)および網膜に高い発現が認められた。神経系以外では、心臓血管内皮細胞に高い発現が認められたが、その他の領域では、ほとんど発現が観察されなかった。次に、PPM1L-KOマウスと野生型マウスの神経構築を神経解剖学的に精査した結果、側脳室の拡大と大脳神経線維束の非薄化と前交連における有髄神経線維の減少が観察された。現在までのところ、摂食行動の制御の中枢である視床下部の構造異常は観察されていないが、PPM1L-KOマウスでは、摂食制御に関わる神経回路に異常が生じ、摂食量が低下した結果、肥満しにくくなっている可能性が示唆された。
3: やや遅れている
分子レベルでの機能の解明を目的とした、会合タンパク質の探索を行う予定であったが、タンパク質の発現条件の検討等に時間がかかっており、まだ着手していないため。
これまでの解析により、PM1L-KOマウスでは、摂食制御に関わる神経回路に異常が生じ、摂食量が低下した結果、肥満しにくくなっていることが示唆された。神経回路形成におけるPPM1Lの役割を明らかにするため、組換えタンパク質をbaitとしたアフィニティー精製法などの手法により、会合タンパク質を探索し、分子レベルでの機能の解明を目指す。
タンパク質を発現させる細胞として現在用いている大腸菌以外にバキュロウイルスを介した昆虫細胞などの使用を検討し、発現条件の最適化を試みる。最適な発現条件が整い次第、解析を試みる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
FEBS Lett.
巻: 590 ページ: 3606-3615
10.1002/1873-3468.12429