研究課題
大量摂取により薬物性肝障害を起こすアセトアミノフェン(AAP)は、肝臓のP450系で代謝された後にグルタチオン抱合を受ける結果、グルタチオンの枯渇を招く。細胞内システインの濃度は低いためその供給量がグルタチオン合成の律速となることから、システインの供給を担う経路である、中性アミノ酸輸送体・酸化型システイン(シスチン)の輸送を行なうxCT・細胞構成成分を分解してリサイクルするオートファジー・メチオニン代謝に連動してシステインの合成過程に関わるトランススルフレーション経路、について検討したところ、いずれもAAP投与により発現亢進が認められた。しかしアスコルビン酸(ビタミンC)合成に障害のあるAkr1a欠損マウスではこうした経路の活性化が抑制されて肝障害が増強され、アスコルビン酸の投与で改善が認められた(Kurahashi et al, Arch Biochem Biophys, 2016)。xCTは健常な肝臓には発現していないがAAPを過剰投与した野生型マウスでは発現誘導され、xCT欠損マウスでは強い肝障害を認めた。トランススルフィレーション経路をPropargylglycine (PPG)投与により阻害した場合、AAPによる肝障害が増強された。以上の結果は、通常はシステインの肝臓への供給経路としてトランススルフレーション経路が中心的な働きをしているが、酸化ストレスや抱合反応によりグルタチオンの需要が高まるとxCTが発現誘導されてシステインを供給し、肝機能を維持するバックアップ機構として働いていることを示している(Kang et al, Free Radic Res, 2017)。
2: おおむね順調に進展している
今回アセトアミノフェン肝障害モデルを作製して解析することで、肝臓におけるxCTとトランススルフレーションの役割について明らかになってきた。すなわち、健常状態の肝臓ではxCTは発現しておらず、メチオニンからシステインを合成するトランススルフレーション経路が主要な経路として働いていると考えられる。トランススルフレーション経路を構成する二つの酵素は硫化水素の合成にも関わるため、今後は硫化水素の関与についても検討を進める予定である。これまでに論文報告に基づいて硫化水素の測定を試みたが、信頼性の高い結果が得られておらず、更なる検討が必要である。
マウスのみの検討では詳細を理解するのは困難なため、トランススルフレーション経路によるシステイン供給と硫化水素供給の関連を解明するために、初代培養肝細胞とマウスヘパトーマ由来のHepa1-6細胞を用いて検討する。初代培養した肝細胞では単離に伴ってxCTが誘導されるようになるが、初代培養細胞では安定した結果が得られないため、Hepa1-6細胞株をシステインおよびメチオニンを欠く培地で培養し、システイン供給に働く他の経路との関係を明らかにする。細胞内に供給されたシステインの多くはグルタチオンの合成に利用されるが、システインの供給が不足するとシステインに代わって2-amino butyrate (2AB)を材料にしてOphthalmic acid (OPT)を合成する。最近確立したLC-MSによるOPT測定系を用いて行なった絶食マウスの検討の結果、血中システインおよびグルタチオンの減少と逆相関する形でOPTの増加が認められた。この結果は、システインはメチオニンから合成できるため必須アミノ酸に分類されないが、合成量は限られるため食事からの供給が重要なことを示している。グルタチオンの測定だけでは必要なシステインの供給量が満たされているか否かの判断はできないが、OPTを同時に測定することでそれが可能となる。絶食や偏食によりシステインが不足するとグルタチオン合成量が低下するため、細胞のレドックスバランスが崩れて健康維持に支障をきたす可能性があることから、今後は食事由来のシステインの供給も加味して検討を進める。
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