研究課題/領域番号 |
15K08299
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷上 賢瑞 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (90648627)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | lncRNA / ASBEL / TCF3 / β-catenin / ATF3 |
研究実績の概要 |
多くのタンパクコード領域からアンチセンスRNAが転写され、センスRNAと複合体を形成して様々な生物学的過程に関与していることが明らかとなってきた。しかし、癌形成能維持におけるアンチセンスRNAの役割、及びその分子機構については十分に明らかになっていない。我々は、卵巣癌において癌抑制遺伝子ANA/BTG3のアンチセンスRNAであるASBEL (antisense ncRNA in the ANA/BTG3 (three) locus) が、腫瘍形成能を制御していることを見出した。続いて我々は、ASBELが大腸癌細胞においてβ-cateninによって転写制御されていること、及び転写因子であるTCF3と複合体を形成してATF3の発現を抑制することによって大腸癌の腫瘍形成能を獲得していることを見出した。本研究では、β-cateninがASBEL及びTCF3の発現を制御している生理的意義、及びASBEL-TCF3複合体が大腸癌の腫瘍形成能を維持する新規の分子機構を明らかにすることを目的として研究を進めてきた。 現在までに、ASBEL-ATF3経路にネガティブフィードバック機構が存在すること、及びTCF3による標的遺伝子座の認識をASBELが制御していることを明らかにした。また、大腸がんにおいてASBELはANA/BTG3 mRNAには影響を及ぼさないが、ANA/BTG3タンパク質の発現を負に制御していることを明らかにした。しかし卵巣がん細胞と異なり、ASBELによる大腸がん細胞の増殖制御にANA/BTGタンパク質は影響を及ぼさないことを明らかにした。今後は、更なるASBEL-TCF3制御因子の同定を行い、lncRNAによる転写因子の機能制御が大腸がんの腫瘍形成能維持に関与する機構を俯瞰的に明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、ATF3がASBELの発現を負に制御することを見出した。さらに、ATF3抗体を用いたChIPアッセイによってATF3がASBELのプロモーター上に結合していること、またATF3の発現を抑制するとASBELのプロモーター活性が上昇することを明らかにした。 ASBEL-TCF3複合体のターゲット遺伝子であるATF3の発現を抑制しておくと、ASBEL, TCF3の発現抑制によって引き起こされる腫瘍形成の抑制が緩和されることが明らかとなった。そこでASBEL-TCF3複合体によるATF3の発現制御機構を明らかにするために、ASBELによるTCF3の制御を確認した。結果、ASBELはTCF3量及びTCF3のダイマー化に影響しないが、ASBELの消失によって、TCF3がATF3 locus上から離れることを明らかにした。また、TCF3結合領域を用いたレポーターアッセイにより、TCF3のATF3 locusの結合領域にATF3のenhancer活性があることを明らかにした。さらに、ASBELはATF3 locus上のTCF3結合領域に強く結合していることが明らかとなった。これらの結果より、大腸がん細胞において、ASBELはTCF3と結合することによってTCF3をATF3のゲノム上にリクルートし、ATF3の発現を抑制することによって、大腸がんの腫瘍形成能を維持していることが示唆された。また、大腸がんにおいてASBELはANA/BTG3 mRNAには影響を及ぼさないが、ANA/BTG3タンパク質の発現を負に制御していることを明らかにした。しかし卵巣がん細胞と異なり、ASBELによる大腸がん細胞の増殖制御にANA/BTGタンパク質は影響を及ぼさないことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
ASBEL-TCF3複合体の制御因子であるβ-cateninの発現抑制によって、ターゲット遺伝子であるATF3がどのような制御を受けるかを確認する。続いて、β-catenin の上流因子であるAPCの発現を制御することによって、ASBEL-TCF3複合体、及びATF3の発現がどのように変化するのかを確認する。さらにその際、β-cateninがどのような挙動を示すのかを確認する。また、大腸組織及び大腸がん細胞株において、ASBEL、TCF3、ATF3がどのような発現をしているかを確認する。さらに、ASBEL及びTCF3の細胞内局在を明らかにする。 続いて、腫瘍形成に必要なASBEL-TCF3の新規制御因子の同定をおこなうために、RNA-seq解析及びRNA screening を行う。さらに、MS解析で得られたTCF3結合タンパク質に着目してRNAi screeningを行い、ASBEL-TCF3依存的な細胞増殖制御機構に関与するタンパク質を同定する。続いて、当該因子のASBEL-TCF3による制御機構の解明を行うために、下流因子はChIP解析を行い、当該遺伝子座におけるTCF3の結合及びエピゲノム変化を確認する。結合タンパク質については、翻訳制御、安定化制御、局在制御などの観点から解析を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展から鑑み、次年度の実験用消耗品にあてるため
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次年度使用額の使用計画 |
実験用消耗品にあてる
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