研究課題/領域番号 |
15K08300
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
北嶋 繁孝 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (30186241)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ストレス応答転写因子 / ATF3 / Wntシグナル / がん浸潤抑制 / MMP / TIMP / システムズ解析 |
研究実績の概要 |
ヒトがんの発がん、がん抑制および抗がん治療感受性には、ストレス応答シグナルの異常が深く関与しており、その解明は難治がんの病態を明らかにし、それに基づく診断や治療のバイオマーカーの同定につながるものと期待されている。我々の研究室では、細胞のストレス応答のハブ機能を有するとされるATF3の研究を長らく進めてきた。本研究課題の元でこれまでに以下の成果を得ている。 (1)ストレス応答転写因子ATF3が、ヒト大腸がん細胞でWnt経路の直接の標的遺伝子であり、癌細胞の浸潤、遊走を抑制することからWntシグナルの負の作用を担っていることを見出していたが、がん病態に関わる遺伝子の発現解析から、Wnt-ATF3経路がMMT・TIMPを制御していることを明らかにした。論文発表の準備に取り掛かった。 (2)ATF3骨軟骨選択的遺伝子改変マウスを用いて、変形性関節炎においてATF3が関わっており、その抑制は病態の緩和、改善につながることを見出した。またヒト変形性関節炎においてもATF3発現が高度に促進しており治療標的になりうることを含めて論文発表した(金沢大学、東京医科歯科大学との共同研究)。 (3)ATF3の骨軟骨細胞選択的ノックアウトは、RANKL誘導の骨粗鬆症を抑制し、その作用は破骨細胞前駆体の増殖を抑制するためであることを見出した。骨粗鬆診断、予防、治療への発展が示唆された(金沢大学との共同研究)。 (4)ATF3ノックアウト細胞を供与し、日本脳炎ウイルス感染においてATF3が発現誘導され、ウイルスの増殖を負に制御していることを見出した(インドワクチン感染症研究センターとの共同研究)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ヒトがんの発がんと抑制にはストレス応答シグナルの異常が深く関係している。細胞増殖シグナル経路であるWntは特にヒト大腸がんの進展促進経路としてよく知られている。我々は、これまで、ストレス応答転写因子ATF3がWntの直接的な標的遺伝子であることを見出している。ATF3の生物機能を解析したところ、興味深いことに、ATF3はがん促進経路であるWntの下流で誘導されながら、それ自身はがん抑制に働くことを見出した。今年度は、ATF3のがん抑制に関与する遺伝子の一つとして、MMPとTIMPの両方を制御することで相乗的にがん細胞の遊走と浸潤を抑制することを見出した。 (2)また、国内の金沢大学との共同研究で、ATF3が変形性関節炎と骨粗鬆症の病態発現に関わっており、それぞれ新たな治療法的になりうることを英文論文2報に報告した。 (3)さらに、インドのワクチン感染症研究センターとの共同研究では、ATF3は日本脳炎ウイルス乾癬によって強力に誘導され、その増殖を制御することを見出している。現在、発表準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である3年目では、課題のテーマであるヒト大腸がんにおけるWnt-ATF3経路の研究をまとめて原著論文の発表を目指す。その結果、難治がん治療の新しい治療戦略に貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、すでに行っていたデータのシステムズ解析であり、経費の未使用分が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
データの解析は28年度でほぼ終了して、本研究課題の最終年度である29年度内に、論文発表を行う。研究代表者は東京医科歯科大学の非常勤講師として遂行する予定であり、論文作成および投稿料として使用予定である。
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