本研究では、癌病態におけるオートファジー障害の生物学的な意義を詳細に理解し、オートファジー障害を持つ癌に対する治療戦略および各癌におけるオートファジー活性の測定法を確立することを目的として研究を行ってきた。 現在まで、癌組織においてオートファジー活性を測定する方法は確立されていない中、我々は、オートファジー分解の基質であるp62分子に着目した。我々の培養細胞株を用いた解析では、p62発現量とオートファジー活性との逆相関性を確認している。そこで、我々は、194症例の子宮体癌検体を用いた免疫組織染色により、p62の発現状態を調べた結果、194症例中38症例(19.6%)において、p62が高発現していることが明らかとなった。また、そのようなp62高発現症例の患者の全生存率は、p62低発現症例に比べて、有意に短く、独立した予後因子となることが分かった。さらに、p62高発現する子宮体癌細胞株を用いたin vitro解析および同所性移植実験により、p62の高発現は癌細胞の浸潤能、細胞ストレス耐性能、およびin vivoでの造腫瘍能の獲得に深く関与することを明らかにした。このことは、オートファジー分解基質であるp62分子の蓄積が子宮体癌の悪性化に寄与することを示唆している。今後、p62高発現する癌細胞の特性を多面的に理解し、そのような癌細胞に特異的に効果を示す低分子化合物または治療応用可能な機能性マイクロRNAの探索を行う予定であり、既にそのスクリーニング系を構築している。このように、本研究成果は、オートファジー活性を基盤とした新たな癌の治療戦略の確立に繋がると考えている。
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