本研究では、引き続き、癌の様々な病態におけるオートファジーの役割及び障害の生物学的な意義を詳細に解析し、オートファジー活性の有無に基づいた新たな治療戦略とオートファジー活性の測定方法を開発することを目的として研究を行ってきた。 抗がん剤を用いた治療抵抗性の克服は、がん治療における大きな課題である。転写因子NRF2の活性化は、治療抵抗性の獲得に寄与しており、一部の癌では、オートファジーの不活性化によりNRF2が恒常的に活性化していることも知られている。そのような中、29年度では、食道扁平上皮癌において、NRF2の活性を正に制御するマイクロRNA(miR-432-3p)を同定した。このことは、miR-432-3pの発現を治療的に制御することは、NRF2を標的とした新たな治療戦略の開発に繋がる可能性を示唆している。 また、卵巣癌において、非必須アミノ酸グルタミン合成酵素(Glutamine synthetase; GS)の不活性化を有する卵巣癌細胞は、その細胞生存において、細胞外グルタミン取り込みに依存していること、そして、そのようなGS不活性化卵巣癌に対しては、L-アスパラギナーゼ処理により、細胞外グルタミンを枯渇させる治療戦略が有効である可能性を示した。L-アスパラギナーゼ処理の際、細胞生存のための作用として、オートファジーが活性化されるが分かった。これらの結果は、グルタミン合成酵素の発現の有無を指標として、細胞外グルタミンを枯渇することによる個別化治療法の開発に繋がることが期待される。上記研究成果に関する論文2報を報告した。
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