研究課題/領域番号 |
15K08303
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神澤 範行 大阪大学, 微生物病研究所, 特任助教 (40452461)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アルキルリン脂質 / GPIアンカー / 脂質リモデリング / ペルオキシソーム病 |
研究実績の概要 |
我々は、これまでにGPIアンカーの生合成の過程でジアシル型のGPIアンカーがアルキルアシル型に変換されることを明らかにしていた。しかしアルキルアシル型に変換される際のアルキル供与体については不明なままであり、そのアルキル供与体の同定を試みた。先に生合成における中間体の脂肪鎖構造を分析すると、その構造は細胞内の特定のリン脂質の脂肪鎖構造と類似することが分かり、生体内でのリン脂質生合成を行う酵素であるSELI, CHPT1, CEPT1をそれぞれ欠損させ、GPIアンカーへの影響を検討することにした。 事前の研究において、その上記のリン脂質の生合成に関わる酵素遺伝子をCRISPR/Cas9のシステムを用いてノックアウト細胞を作出すると、細胞にストレスが掛かり死滅あるいは増殖が極端に遅くなることが分かっていた。そこで本研究課題では、Tet-offシステムでターゲット遺伝子の発現を制御しつつ、CRISPR/Cas9のシステムでノックアウトする方法をとった。細胞はヒト血球細胞のK562を用いて、GPIアンカー型タンパク質であるCD59にタグを付けて恒常的に発現させ、Tet-offシステムを導入後にCRISPR/Cas9のシステムでノックアウトした。この手法により、ゲノム上のターゲット遺伝子が破壊されても目的の細胞が得られた。その後Tet-offシステムでターゲットとなる遺伝子の発現を抑制、GPIアンカーに対する影響を検討した。アフィニティークロマトグラフィーでCD59を精製、PVDF膜に転写後、亜硝酸ナトリウムで処理することでPI部分を遊離、得られたPIの脂質部分を質量分析法で分析した。また総脂質の分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前の実験で、目的遺伝子を直接ノックアウトした時は細胞への影響が大きくノックアウト細胞を作出できなかった。そのためTet-offシステムを併用し目的遺伝子の発現を制御しながら遺伝子を破壊、細胞への影響を少なくすることでノックアウト細胞を得ることが出来た。本研究におけるノックアウトの確認方法としては、ゲノムDNAおよびcDNAをDNAシーケンサで分析することで確定した。さらにノックアウト細胞の、GPIアンカーの構造を検討した。作出したノックアウト細胞にトリチウムラベルされたマンノースを取り込ませ、GPIを標識、アシル鎖がアルカリ感受性を持つという性質を用い、リゾ体を薄層クロマトグラフィーで分離、アルキル鎖の有無を確認した。その結果、コントロールと比較して、アルキルドナーの候補として考えていた脂質を生合成する遺伝子のノックアウト細胞では、アルキルアシル型GPIアンカーがわずかに減少していた。しかし考えていたよりも少ない変化量であった。さらに細胞から上記の遺伝子のノックアウト細胞から、リン脂質を抽出し精密質量分析を行った。この結果、先のいずれの遺伝子を潰した細胞でも、コントロールと比較して細胞内の総リン脂質に占める各リン脂質の割合が変化していることが明らかになった。このことは細胞が代替の経路を活性化することで、脂質のプロファイルが変化した可能性が有る。
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今後の研究の推進方策 |
当初の想定よりGPIアンカーへの影響が出なかった、あるいは脂質プロファイルが予想と異なったことの原因としては、以下のことが考えられる。Tet-offシステムを働かせ、既に発現しているタンパク質と細胞内に蓄積する脂質が消失して影響が出るまでに少なくとも10日ほど時間が掛かる。さらにGPIアンカーの脂肪鎖分析に必要なタンパク質量は1 nmolで、大量の細胞を得る必要が有り、それまで培養を続ける必要が有る。培養時間が掛かりすぎると、細胞に掛かるストレスを回避するパスウェイが活性化されたと考えられる。この影響を回避するため、一時的な遺伝子抑制が可能なsiRNAによって目的の遺伝子をノックダウン、GPIアンカー型タンパク質を精製、そこから亜硝酸ナトリウム処理によって脂肪鎖部分を得て精密質量分析を行うことを考えている。この方法はノックアウト細胞を作出する前に行っていた方法であり、前述のアルカリ感受性の方法を用いてアルキルアシル型が減少して、ジアシル型になったことを確認していたシステムであり、確実に結果が得られるものと考えている。
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